IBM初の最高インパクト責任者が語る–誰も取り残されない持続可能な社会への移行

今回は「IBM初の最高インパクト責任者が語る–誰も取り残されない持続可能な社会への移行」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営、トップインタビュー等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 IBMのバイスプレジデント 兼 最高インパクト責任者(Chief Impact Officer:CIO)を務めるJustina Nixon-Saintil氏が来日し、「IBM SkillsBuild」を通したキャリア支援と、「IBMサステナビリティー・アクセラレーター」で取り組む環境面での持続可能性について尋ねた。Nixon-Saintil氏は、IBMの環境・社会・コーポレートガバナンス(ESG)を中心に、社会にポジティブなインパクトを与える活動を推進するCSRのグローバルチームを率いる。

–Chief Impact Officerの役割やミッションについてお聞かせください。

 私はIBMで初のChief Impact Officerに就任しました。そして、CIOの役割は、コミュニティーに対して良い影響をもたらすための施策や戦略を立て、さらには社会に対してインパクトを作り出すことが目的です。

 具体的な施策はいくつかありますが、特に「教育/人材育成」と「サステナビリティー」に注力しています。人材育成では、テクノロジーの職に就きたい人を対象にしたスキルの育成を行っています。また、サステナビリティーの観点では、IBMのソリューションを提供することで、気候変動や地球温暖化に取り組む団体を支援しています。

 IBMはコミュニティーに対して大きな影響を与えていると感じているので、CIOへの就任が決まったときは、グローバルレベルでさまざまな取り組みをリードしていけること、そして教育とサステナビリティーの分野でインパクトを起こすための戦略を考える職に就けて非常にうれしく感じました。

–教育/人材育成の分野では教育プログラム「IBM SkillsBuild」を提供していますね。このプログラムはどのような特徴があるのでしょうか?

 IBM SkillsBuildは、オープンなプラットフォームで、誰でもアクセスできるのが特徴です。現在、1000以上のコースに複数の言語でアクセスすることができます。学習内容は、「サイバーセキュリティ」や「AI」、「量子コンピューター」などテクニカルなものから、「チームワークスキル」や「プレゼンテーション力」、「コミュニケーション力」などのヒューマンスキル、また「クリエイティビティー」に関するコンテンツも用意し、デザイン思考を使ったトレーニングもあります。

 受講しているのは、リスキリングやスキルアップ、テクノロジーの職に就きたい高校生や大学生、社会人などです。また、提供方法としてはNPOとパートナーシップを組むことで、各地域に適した形でトレーニングを提供できるようにしています。例えば、女性が再就職するためのトレーニングや学生に対するトレーニングが必要なコミュニティーなど、地域によって需要は異なります。このようにあらかじめ対象者が決まっていることで、カスタマイズしたプログラムをNPOなどの団体を通して提供することができます。

 このプログラムを通してスキルを取得することで、IBMのデジタルバッジを受けられます。例えば、サイバーセキュリティのコースを修了することで、受講者はこの分野における知識を十分に有している証拠としてバッジを獲得できます。IBM SkillsBuildは単に知識を得るだけでなく、このバッジを履歴書や「LinkedIn」に記載することで、職の機会にもつなげることができます。

–日本においてデジタルバッジの認知度はいまだ低い状況にある印象です。米国ではいかがでしょうか。

 米国においてデジタルバッジに対する認知度は高い状況にあります。というのも、何らかの事情で大学に行かなかった人に対する施策に注目が集まっているからです。大学の卒業証書がなくても、デジタルバッジを活用して職に就けたり、既に就職している人がテクノロジー業界に移行するために、知識を持っている証としてデジタルバッジが活用されたりしています。

 これを「Skills-first approach」と呼び、IBMも含めて採用している企業は増えています。要するに、特定の業種においては大学の卒業証書よりもデジタルバッジに重点を置いて採用活動をする企業があるということです。

–「2030年までに世界中で3000万人のスキル習得を支援する」というコミットメントに対して、現在の進捗(しんちょく)状況はいかがでしょうか。また、このコミットメントに向けた新たな取り組みなどがあればお聞かせください。

 現時点で、さまざまなパートナーと協力して700万人に対してスキル習得の場を提供できているため、2030年に向けた目標としては順調だと感じています。日本では、大阪府と大阪労働協会との連携を通して求職者向けにIBM SkillsBuildの提供や、フリーランスのリスキリングを推進するためにプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会と共に学びの機会を提供しています。コンテンツやトレーニングの提供だけでなく、IBMの社員がメンターになることで、受講者やNPOをサポートしています。

 また、このコミットメントを達成するためには、今のテクノロジーの早さを考えると、AIとサステナビリティーを重点分野として捉える必要があります。そのため、受講者にはこの2つの領域を伸ばしてもらえるようにスケーリングを図っています。

–Nixon-Saintil氏が立ち上げを主導した「IBMサステナビリティー・アクセラレーター」についてもお聞かせください。

 これは無料のプログラムで、IBMが保有するソリューションやデータ、専門知識を用いて、気候変動によって危機にさらされているコミュニティーを支援する取り組みです。環境負荷を負うコミュニティーが多くある一方、テクノロジーやデータをどのように活用して解決すればよいか分からないコミュニティーが少なくありません。そういったコミュニティーを取り残してはいけないと考え、このプログラムを立ち上げました。

 毎年、IBMが環境テーマを決めてそのテーマに合った5つの団体を選定します。初年度である2021年は「持続的な農業」、2022年は「クリーンエネルギー」をテーマにし、そこで選ばれたのが沖縄県宮古島市です。

 宮古島市では台風が多いため停電リスクが大きく、コストを抑えるため再生可能エネルギーを活用したいという意図がありました。そこでIBMは宮古島市と共創してマイクログリッドをはじめとする再生可能エネルギーの自給率向上への寄与を目指しました。気象データを提供する「IBM Environmental Intelligence Suite」や「IBM Cloud」などを活用し、発電量の予測やエネルギーインフラの高度化に取り組みます。

 現在は実装が始まったばかりなので、初期の段階として私も宮古島市の視察を行います。また、この取り組みを推進するため、IBMのデータサイエンティストやエンジニアが継続して作業を進め、市のサポートも行っています。

–以前から環境問題への関心を抱いていたのでしょうか。

 もともと私は機械系エンジニアだったので、テクノロジーを使ってどのように社会やコミュニティーを支援できるかに関心を持っていました。具体的に環境問題に重点を置き始めたのは、IBMに入社してからです。

 IBMは環境に対する取り組みとして長い歴史があり、50年前に既に環境ポリシーを打ち出していました。また、IBMという会社自体が環境問題を解決できるソリューションや整合性を持っていたこともあり、入社後にサステナビリティーや環境が私にとって優先順位の高い事項になりました。

 それに、今の時代は世界的に危機意識や切迫感が高まっているように感じます。誰もがどうすればコミュニティーを支援し、環境を脅威から守れるかを考えなければいけない時代であると認識しています。だからこそ、各国の政府や企業が「ネットゼロ」に対するコミットメントを打ち出しています。IBMとしてもコミットしている問題ですが、世界全体で取り組まなければいけないと感じています。

–最後に、Chief Impact Officerとして今後、どのようなことに取り組む予定でしょうか。

 引き続き注力したい取り組みとしては2つあります。まずは「教育/人材育成」です。この重点分野になるのは、先ほども述べた通りAIとサステナビリティーになると考えています。というのも、テクノロジーの進展により、これらのスキルは需要が高くなっています。また、グリーンエコノミーに対する注力が必要だという背景もあり、スキルの習得は重要になると感じています。

 2つ目は「Just Transition」(公正な移行)です。これは、誰も置いていかない形で移行をしなければならないということです。例えば、環境の脅威にさらされているコミュニティーが取り残されないように新しい形に移行しなければなりません。このJust Transitionの実現は非常に重要になります。そのために、IBMサステナビリティー・アクセラレーターをさまざまな分野に発展させていきたいと考えています。

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