アルペンが社内人材と“割り切り”で進めた「脱レガシー」と「内製化」
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スポーツ用品店を展開するアルペン(名古屋市)は、2019年に中期IT戦略を策定し、「脱レガシー」と「内製化」の2つの柱でIT基盤の刷新に取り組んでいる。同社 デジタル本部長 兼 情報システム部長の蒲山雅文氏に、その背景や目的、進行状況を聞いた。
経済産業省によって2018年に「DX推進ガイドライン」が策定されて以来、ニトリ、ファーストリテイリング、良品計画、カインズ、セブン&アイ・ホールディングスといった小売大手は、システム内製化に大きくかじを切っている。その多くは、東京に別会社を設立してIT人材を集めて内製化を推進しており、蒲山氏は「これらの企業に追いつくことはできない」と感じていた。一方で、レガシーシステムに依存したままでは競争力を失うという危機感もあった。
アルペンでは、30年間にわたってパッケージとスクラッチを中心とした外注開発のレガシーシステムを運用してきたが、2019~2023年にかけてそのシステムを刷新する計画を立てた。その中で内製化の必要性を強く感じつつも、当時の情報システム部門では、IT人材の不足やスキルが不足していることが明らかだったという。
「当社の従業員のほとんどは新卒入社後、数年間の店舗勤務を経て、一部が本社に異動し、さらに一部が情報システム部に配属される。部全体で約20人のうち15人ほどが情報システムに関する業務を担当しており、開発系の業務に従事しているのは10人以下。その中でも、開発経験が10年以上あるのは4人だけ。質的・量的に十分とは言えない状態だ」(蒲山氏)
そこで、蒲山氏は脱レガシーの実行計画と並行して、レガシーシステムからの移行と同時に、クラウド技術を活用して内製化の文化を徐々に築いていくことを経営陣に提案した。
中期IT戦略では、システムを「基幹系」「管理系」「顧客系」「情報系」の4つに分類し、それぞれの特性に応じて開発方針を決めた。「基幹系」は安定性を重視し、実績のある大手ベンダーに委託した。「管理系」は効率性を重視し、標準化されたパッケージソフトを導入した。「顧客系」は拡張性を重視し、ローコード開発で内製と外注のバランスを取った。「情報系」は機動性を重視し、クラウドサービスで柔軟に対応した。
蒲山氏によると、「勝てる領域しか内製化しない」と割り切ったという。例えば、発注購買、在庫、倉庫、販売といった基幹業務を回すためのシステムは、内製化するリスクが高いため、引き続き当面は外部ベンダーに任せることにした。
一方で、小売業においては、日々変化する市場環境に対応するために、機動性を重視する情報系システムの開発は完全に内製化することが望ましいと考えた。実際、当時のアルペンでは毎週毎週の事業の状況を把握するため、レガシーシステムから膨大なファイルを吐き出し、「Excel」で処理するという非効率な方法を取らざるを得なかった。「毎週50人近くのバイヤーがExcelと悪戦苦闘している様子を見ていて、この方法は最適ではないと感じていた。まずは、この部分を改善することに着手するべきと判断した」
第一歩として、アルペンでは、クラウドBIとETLツールを導入した。従来は、発注購買、在庫、倉庫、販売へと流れる業務プロセスと、それに伴う膨大なデータをレガシーシステムで処理、蓄積していた。そのデータをファイルとして出力し、Excelで加工していたのだ。
しかし、それでは分析の速度や処理できるデータ量に限界があった。そこで、定型分析用にクラウドBIツールを導入し、レガシーシステムからデータを取り込み、高速に分析できるようにした。最初は、リスク回避のために現行システムには手をつけず、手動でデータを移動させていたが、社内での評価が高まってきたタイミングでETL(Extract:抽出、Transform:変換、Load:ロード)ツールを導入した。これは、レガシーシステムから出力されるファイルを自動連携させ、クラウドBIに送るものだ。これにより、現行システムへの影響をゼロに抑えたまま、分析用データが自動的に集まってくる仕組みを実現した。
クラウドBIは4カ月、ETLツールは2カ月という短期間で内製開発が完了した。「ツールさえしっかり選べば、情報システム部のわずかな体制でも、初期投資を最低限に抑えながら短期間で高機能な分析基盤を構築できた」
こうして、クラウドBIとETLツールを導入した同社では、次にデータウェアハウスの活用にも着手した。その理由について、蒲山氏は「フルマネージドのクラウドBIは便利だが、当社の膨大なデータを全て扱うには限界があった」と話す。同社の取扱品番数はSKUベースでおよそ1000万点に及び、年間の売上明細は1億件に達するという。
そうした大量データの高速処理・蓄積用のデータウェアハウスサービスとして、Oracleが提供する「Autonomous Data Warehouse」(ADW)を導入した。これに、日立製作所が提供する統合システム運用管理ソフト「JP1」と連携させることで、レガシーシステムで行っていたデータ処理を内製化した。ADWには全ての基幹データが複製されており、自由に集計や加工ができるようになっている。また、その結果はクラウドBIにリアルタイムに反映される。
蒲山氏はADWについて、「Exadata Database Machine」譲りの性能の高さを評価する。さらに、データベースの運用が全て自動化された自律型データベースである点も特徴だ。大量データ処理を夜間のみで実行し、自動スケーリングでリソースが自動的に縮退する仕組みによってコストも抑えている。
「データベースの運用に関する知識がほとんどないメンバーが情報システム部の大半を占めている中、(ADWの導入によって)利用に必要なことだけを知っていれば十分な状態になり、余計なことを気にする必要がなくなった。これは自律型のデータベースでしか実現できなかったこと。ミドルウェアという領域の技術制約から解放され、専門知識がないメンバーでもデータベースの“利用”に集中できるようになった」(同氏)
この仕組みを構築するためには「ベンダーの協力も必要だった」というが、安全を期するため実装期間に5カ月、並行運用に3カ月ほどを要した。