グリッド、鉄道や海上・陸上輸送を一元化するAI型輸送システムを開発

今回は「グリッド、鉄道や海上・陸上輸送を一元化するAI型輸送システムを開発」についてご紹介します。

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 社会インフラ向けクラウドサービスを手掛けるグリッドは1月22日、鉄道や海上・陸上輸送を一元管理し、物流全体の効率化を実現するマルチモーダル輸送システム「ReNom multiModal」を開発すると発表した。2024年度中に製品化、市場投入し、3年間で10億円の売り上げを目指すという。

 同日の記者会見でAI 事業本部 コンサルティンググループ SCMコンサルタントの小林朋弘氏は、「物流業界の課題を解決するには、トラックに頼る物流をマルチモーダル化する必要がある。だが、複雑で膨大な組み合わせから最適な輸送手段の比率やルートを決定することは難しく、人手では計画を立案できないという課題が生まれている」と前置きし、「ReNom multiModalは、トラック輸送を鉄道や船舶にシフトするための中長期的な輸送リソースの設計や、AIを活用した効率性の高い配車計画、複数の企業間での共同配送計画を立案できる。人手をかけていた複雑な計画をAIにより最適化することで、マルチモーダル輸送の実現に向けた社会基盤の構築、物流人材不足の解決につなげ、持続可能な社会の実現に貢献する」と述べた。

 物流業界は、トラックドライバーの労働時間の規制強化などを背景にした「2024年問題」の影響を受け、トラック輸送能力の維持と物流の効率化が求められている。また、持続可能性の観点から二酸化炭素(CO2)排出量の削減などの課題にも直面している。

 この解決策の1つとして、ドライバー不足が指摘されるトラック輸送だけに頼らず環境負荷の低い鉄道や船舶などを組み合わせるマルチモーダル輸送が注目されている。政府が2023年10月に発表した「物流革新緊急パッケージ」においても、マルチモーダル輸送の推進が盛り込まれ、今後10年程度で鉄道および内航船の輸送量を倍増することが施策に含まれる。

 試算によると、鉄道車両1編成でトラック65台分の輸送が可能であり、船1隻ではトラック160台分の輸送ができるという。また、1トンの貨物を1km運ぶ際のるCO2排出量は、トラックが216gであるのに対して鉄道は20g、船舶は43gで済む。

 マルチモーダル輸送が与えるドライバー不足の解消への貢献や、CO2排出量削減の効果は大きい。だが、マルチモーダル輸送の実現には、短期や中距離ではトラック輸送の方が低コストとなるため、モーダルシフトによってコストが増加する懸念や、鉄道では微振動が常時発生するなど、輸送手段によっては荷崩れや荷擦れが生じ、輸送品質が低下する課題もある。

 また、船による輸送では時間がかかり、悪天候による影響を受けやすいなど、輸送障害発生への対応が煩雑になること、小回りが利くトラック輸送に比べて、予約手配などに手間がかかり、納期管理の難しくなるといった課題もある。これらの課題を解決しながら効率的な輸送を実現するには、複雑で膨大な組み合わせの中から輸送手段の使用比率やルートを決定する必要がある。しかし現在では、人手による輸送手段の一元管理や、最適な輸送計画の立案が難しいのが実態だ。

 グリッドが発表したReNom multiModalでは、デジタルツインのシミュレーター上に、各生産拠点や備蓄拠点、需要拠点とともに全輸送リソースを緻密に再現し、マルチモーダル輸送のシミュレーションを実施する。物流に適したAIを用いることで、複雑なマルチモーダル輸送計画の最適化を実現するという。同社では、AIを活用して最適な運用計画などを立案する社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」を提供。電力や海運、サプライチェーンを重点分野としている。

 今回のReNom multiModalでは、これまで製品化してきた内航船および外航船の配船計画を行い、出光興産や日本郵船が導入している「ReNom VESSL」、鉄道輸送の運行計画業務などを最適化するために大手鉄道会社が導入している「ReNom Railway」、物流企業や消費財メーカーに導入実績を持つサプライチェーン領域における「ReNom SCM」などのノウハウを活用したとのこと。デジタルツインとAI技術を用いて、鉄道、海上、陸上輸送を一元的に管理し、全ての輸送手段を用いた物流全体を効率化できるという。

 具体的には、デジタルツインを活用して、年間の輸送リソース計画を設計。各輸送手段の利用割合をシミュレーションすることで、中長期的な物流コストを計算することができる。また、AIが出力する輸送計画では、輸送品質や納期を考慮するとともに、さまざまな制約条件を反映。CO2排出量の削減や輸送速度の設定、物流コストなどを最適化したマルチモーダル輸送計画をAIが自動的に立案する。

 「高スペック品であり、単価が高い製品の輸送の場合には、トラック便で早急に輸送し、品質基準が低く、納期基準も低い場合には、トラックから船や鉄道に切り替えるといったように、制約条件にあわせた計画が可能になる」(小林氏)

 ReNom multiModalは、鉄道や船舶を対象にした個別システムのシミュレーションでは、実現できなかったさまざまな輸送手段を網羅したコスト削減や、CO2排出量削減の提案、乗務員の労働効率化を実現できるという。船舶輸送に関しては、気象情報を反映したシミュレーションも可能になっている。共同配送のシミュレーションも可能で、輸送コストや人件費、CO2排出量の観点から妥当性を検証し、より効果的な共同配送計画を実現する。

 また、AIが策定した輸送計画の実行結果を可視化できるのも特徴の一つだ。積載率や到着時間、コストなど日々のオペレーションを結果として可視化するとともに、これを利用者が評価し、AIが策定する次の輸送計画の精度を向上させることにもつなげることができるとする。

 小林氏は、「最新の最適化手法やAI、数理技術、メタヒューリスティクスなどを用いているほか、業界知識を持つ社会インフラ出身のエンジニアによって、現場で使えるソリューションを開発できる」とし、「ReNom multiModalでは、既にデータ検証を通じて、効果的な運用が行えることを確認している。今後はマルチモーダル輸送による効率化を目指す荷主企業との協業を通して、本格運用を目指す」と述べた。

 同社によれば、ある食品関連企業は、鉄道、海上、陸上輸送の全ての輸送手段を活用した場合に、CO2排出量の削減、輸送コストの削減ができる輸送計画をシミュレーター上で実証しており、マルチモーダルを使う上での物流効率化の効果を確認しているという。「シミュレーター上では、札幌から東京に10トンの荷物を輸送する際に、CO2排出量の削減を優先したり、輸送コストの削減を優先したり、あるいはバランス型で実行する輸送計画の立案ができた。長距離輸送の方が効果を出しやすい」(小林氏)などとした。

 今後同社は、モーダルシフトを加速するための基盤づくりにも貢献する考えで、船員データや待機情報を基にした船員配乗計画の最適化、鉄道輸送比率シミュレーションによる線路増線計画の提案も進める予定だ。

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