ポストDX時代の企業像–AIコンバージェンスに適応した企業の行動様式

今回は「ポストDX時代の企業像–AIコンバージェンスに適応した企業の行動様式」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営、デジタルジャーニーの歩き方等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 生成AIを含むAI技術が、社会だけでなく産業や事業に大きな影響を及ぼし、ビジネス環境が一変することも考えられます。企業はこれまでの慣習や常識を捨て、新たな企業像を描き、それに向かって変革することが求められます。企業がこうした時代に生き残るための要件は何かを考察します。

 多くの企業にとって長い旅路となるDXジャーニーはいまだ道半ばでありますが、急速に進展するテクノロジーと目まぐるしく変化するビジネス環境の中では、常に半歩先を見据えた備えが求められます。本連載の前回「AIコンバージェンス時代の到来–ポストDXの時代に注視すべきトレンド」では、“AIコンバージェンス”を次なるテクノロジートレンドと捉え、AIがあらゆる技術と融合することを前提とした世界観を紹介し、産業構造が大きく変わることを示唆しました。

 それでは、AIがあらゆる技術と融合することを前提とするとは、具体的にどのような意味を持つのでしょうか。身近なスマートフォンを例に考えてみましょう。内閣府の「消費動向調査」(2023年12月実施分)によると、2人以上の世帯における2023年3月末時点のスマートフォン所有率は92.6%となっています。ほとんどの国民がスマートフォンを利用できる状況にあるものの、所有していない人も少なからず存在します。

 しかし、各種決済や行政手続きなどにおいて、社会はスマートフォンの利用を前提として動いているといっても過言ではありません。従って、AIを活用していない企業が存在していたとしても、社会や産業界全体はAIを前提に動いていく可能性は十分にあることを意味します。

 また、AIはスマートフォンのように筐体(きょうたい)を持つモノではなく、ソフトウェアによって実装されたテクノロジーであり、所有の認識がなくても知らず知らずのうちに利用していることもあり得ます。自宅のエアコンや掃除機に搭載されているかもしれませんし、決済や手続きをするクラウドサービスに組み込まれているかもしれません。従って、意識するか否かを問わず、社会はAIを前提に設計され、動いていくこととなります。企業活動においても、商取引、顧客対応、働き方や業務プロセスなどのあらゆる場面で、AIの活用が前提となることを疑う余地はないといえます(図1)。

 企業活動のあらゆる場面でAIの活用が前提となるとは、どのようなことか具体的に考えてみましょう。企業活動を支える統合基幹業務(ERP)、サプライチェーン管理(SCM)、顧客関係管理(CRM)などのソフトウェアやクラウドサービスには、あらかじめAIが組み込まれるようになることは疑いようがありません。実際にこれらのエンタープライズ分野のソフトウェアベンダーは、自社ソフトウェアへのAIの組み込みや、提供するクラウドサービスとAIサービスとの連携を強化しています。

 また、商取引、顧客接点、社内業務、コミュニケーション、習熟・訓練など、あらゆる企業活動で処理される情報は、リアルタイムに収集・蓄積され、AIの学習データとなり、多くの業務が自動化および最適化の対象となることが予想されます(図2)。

 そうなれば、従業員の行動様式も変わり、人が行うべき業務と機械に任せるべき業務が明確に区別されることとなるでしょう。そして、人材の採用や育成の在り方にも変革が求められ、雇用や就労に対する考え方にも再定義が求められると考えられます。

 本連載の前回では、AIコンバージェンスが産業に及ぼす影響において、産業構造がプラットフォーム型からクラスター型に変わると述べました。産業構造が変わればそれに適応して企業も変わらなければならないことは言うまでもありません。企業の競争力の源泉は、既に有形資産から無形資産にシフトしており、人材や知的財産への投資が重要視されるようになっています。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やTesla Motorsに代表されるデジタルネイティブ企業は、インターネットの時代のモデルからAIコンバージェンスの時代のモデルへの移行に向けて、既に異業種との連携や多方面への投資を積極的に進めています。

 このような環境下において企業に求められるのは、全てを自前で持つことにこだわらず、必要に応じて異業態や競合する企業と連携・協力する、そしてリスクをいとわず多方面に分散投資し、新しい取り組みをすぐに試し、データに基づいた判断から場合によってはすぐに止める、といった行動様式です。また、このような企業の行動様式を実現するには、その土台となる組織能力として価値創出力、問題解決力および変化適応力の3つが求められるでしょう(図3)。

 これらの能力は、企業に所属する人材の能力に大きく依存しており、これからの企業は、人的資本の価値をいかに高めるかが勝敗を分けることになるでしょう。人的資本経営の重要性については、以前の本連載「人的資本経営とDXの関係–企業価値の持続的成長を支える2つのドライバー」でも述べた通りです。企業は、人的資本経営に大きくかじを切ることが、DXを成功させるだけでなく、生き残りをかけた企業変革を断行する上で不可避であることを理解しなければならないのです。

 AIが、社会だけでなく産業や事業に大きな影響を及ぼし、ビジネス環境が一変した際に企業に求められることが、むしろ人材の能力に大きく依存しているということは意外であり、皮肉に思えるかもしれません。企業は、これまで以上に人の価値や存在意義を問い直し、目指すべき企業像を描いていくことが求められます。

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