「さん付け呼称」を徹底–クボタが語る、エンゲージメント調査の“その先”
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クアルトリクスは11月16日、エクスペリエンス管理をテーマにしたイベント「XM on Tour Tokyo 2022」を開催した。同イベントでは、自社の最新動向を紹介するほか、産業機械メーカーのクボタらがクアルトリクス製品の導入状況を説明した。
クボタは2020年末、長期ビジョン「GMB(Global Major Brand)2030」を策定し、事業基盤の一つにESG(環境、社会、ガバナンス)を組み込んだ。クボタの頭文字を取った同社のESG施策「K-ESG」では、ESGの「S」は社会だけでなくステークホルダー(利害関係者)も含むとし、「従業員もステークホルダーの一つである」という考えのもと、人材を重視する姿勢を明確にした。
クボタは「従業員の成長と働きがいの向上」に向け、エンゲージメントサーベイの実施を決定。同社は2012年から、従業員の士気を調査する「モラールサーベイ」を実施していたが、「人事制度の見直しにとどまっている」「ターゲットがクボタ単体でグループ企業の状況が分からない」「集計結果を共有するのみで、それに対する働きかけがない」などの課題があった。
クボタはエンゲージメントサーベイをまず自社単体で行い、国内グループ企業、海外を含むグループ全体に広げていくことを見据えている。同社は、複数の言語対応や分析、他社のベンチマークとの比較などが可能なことから、クアルトリクスの従業員エクスペリエンス管理ソリューション「EmployeeXM」を導入した。
同社は2021年12月に第1回のサーベイを実施し、その結果を基に約1年さまざまな取り組みを行ってきた。調査の結果、同社の状況が全世界/国内製造業企業の平均を大きく下回っていたという。「社会貢献性」や「会社の将来性」などのスコアは高かった一方、「成長の機会」や「変化への適応」などに課題があり、「気軽に本音で言い合える風土」に関する設問に肯定的な回答をしたのは約3割にとどまった。
人事・総務本部 人事部 人事企画課 課長の和田慎也氏は「社長は調査結果に対して非常にショックを受けていた。だが、それだけ真剣に受け止めてくれたということで、後の活動においてはプラスになった」と当時を振り返る。
調査結果は経営層と一部の部門長にも共有した。部門長に対しては、人事部門が結果報告会を開催した上で、ダッシュボードの閲覧権限を付与し、部内で共有・対話することを依頼した。
同社はEmployeeXMのドライバー分析機能を活用し、肯定的な回答の割合が低い一方で、エンゲージメントスコアとの相関が高い4項目「成長の機会」「変化への適応」「業務プロセス」「コミュニケーション」に注力。各項目ごとに複数の施策を全社的に実施した(図1)。
例えば、コミュニケーション施策の一つとして、経営トップと従業員が対話する「タウンホールミーティング」を開催。社長・副社長をホストとして約1年間で20回行い、300人以上と対話した。「各役員が従業員の声に応えている」といった設問のスコアも低かったことから、各事業部トップとのタウンホールミーティングも開催したという。
「さん付け呼称」の普及にも取り組んだ。「当社は非常に古いタイプの会社で、それまではメールを送る際も社内の人間なのに『~部長殿』と呼んでいた。そういう形で呼ぶとどうしても上下関係が強くなってしまうので、社長にも同意してもらい、さん付けを全社に呼び掛けた」と和田氏は語った。
同氏はこの取り組みを「恐る恐る始めた」というが、結果として多くの従業員が好意的に受け止めており、部門長からも「おかげでコミュニケーションが取りやすくなった」という声があったそうだ。
そして2022年11月、同社は第2回のエンゲージメントサーベイを実施。今回は調査対象を国内のグループ企業にまで拡大し、本社とのギャップも認識できたという。クボタ単体では、前年度と比べて1ポイント上昇した。また同社が注力してきた4項目のうち、「成長の機会」「変化への適応」「コミュニケーション」では、肯定的な回答が3ポイント以上アップし、施策に対して一定の効果を確認することができた。
課題としては、部門長に調査結果の部内での共有・対話を依頼したが、実際にはほぼ行われなかったということがある。これを受けて和田氏は、マーケティングの考えから着想し、マネージャーがエンゲージメント向上の取り組みを実行するために必要な要素を洗い出した。要素には、「ベネフィット:エンゲージメントが向上して得られる価値があるか」「ツール・手法:自分の部門におけるエンゲージメントがすぐに分かるか、エンゲージメントを上げるために何をすべきかが分かっているか」「認知:組織におけるパフォーマンスの向上を考えた時、エンゲージメントの向上が思い浮かぶか」という3つがある。
同社は今後、サーベイをグローバルに展開し、グループ全体で従業員の成長と働きがいの向上を目指すとともに、経営陣における認知の質向上と各部門の巻き込み強化に取り組む。また、各部門に対して施策を行うだけでなく、それを支える人事施策も必要だと認識しているという。