自分の言葉でクラウドを語れる人を育てたい–日立のクラウド人財育成記

今回は「自分の言葉でクラウドを語れる人を育てたい–日立のクラウド人財育成記」についてご紹介します。

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 日立製作所(日立)は、クラウドに精通したクラウドエンジニアをDX推進に必要な「デジタル人財」として位置付け、その育成を進めている。その結果、Amazon Web Services(AWS)認定資格保有数は2000を超え、さまざまな認定や賞を獲得している。

 ここでは、AWSが展開するパートナープログラム「AWSパートナーネットワーク」(APN)において「2023 Japan AWS Ambassadors」に認定された、日立製作所 マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 デジタルサービス第1部 主任技師の富田琢巳氏と同事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 主任技師の三木隆史氏に、日立が取り組むクラウド人材育成やAWS Ambassadors認定までの道のりなどを聞いた。

 2007年に日立に入社した富田氏は、2020年に立ち上がったクラウド専門の部署、いわゆるクラウドセンターオブエクセレンス(CCoE)でクラウドの提案に関する相談から技術支援まで、社内のさまざまなニーズに応えてきた。2022年に、現在所属するデジタルサービス第1部に異動し、現在はクラウドアーキテクトとして日立がサービス提供しているシステムのモダナイズ開発を担当している。また、社内のエンジニアの技術評価やスキルアップのサポートをしているという。

 2003年に入社した三木氏は、2019年にCCoEの前身となる部門の立ち上げメンバーとして参画し、富田氏と共にクラウド推進を支援してきた。現在は、システムインテグレーション(SI)提案のサポートや技術支援、クラウド人材育成を中心に活動。AWSをはじめ、複数のクラウドインストラクターの資格を保持しており、日立グループの人材育成を担う日立アカデミーと共に人材育成を積極的に進めている。

 両者はCCoEの立ち上げメンバーとして社内のクラウド推進に注力し、以来、富田氏はエンジニアの側面から、三木氏はビジネスの側面からクラウド人材の育成に携わっている。

 日立では、「Lumada」事業を展開し、デジタルソリューションを用いて顧客の課題を解消している。三木氏は、このLumada事業を進めるに当たり、「クラウドは必要な技術であり、日立の社員全員が当然のようにクラウド技術に慣れ親しむことが望ましい」と述べる。

 クラウド人材の育成は日立アカデミーと共に2020年に開始。全社でのクラウド人材育成を目指すに当たり、日立ではAWSやMicrosoftの「Azure」、「Google Cloud」のエンジニア育成パスを整理し、社内でロードマップを敷いた。

 職種は関係なく、同社の社員がクラウドの研修を必ず受講し、日立のポータルサイトで自己学習できる環境をつくることで、社員が自分たちのキャリアを考える機会を創出している。

 これまでの取り組みを通して、三木氏は「(クラウドをあまり利用しない)業務に就いている社員にクラウドの資格を取得させるために、モチベーションをどのように上げるかが難しい」と課題を挙げた。しかし、今のように全社的な取り組みとして実現できたのは、各チームがスモールスタートで人材育成を行ったからだという。富田氏は「トレーニングやアウトプットの場において、日立全社一律のルールを決めるというのは難しい。動ける部署や小さな範囲で始めたことが成功につながった」と説明する。

 また、クラウドに興味があるものの個人でクラウドのアカウントを作成するとなるとハードルが高く、実践の機会をつくるのは難しい。そこで、同社が研修やハンズオンの場を設けて200人程度の参加者を募ったところ、社員からの応募が殺到したという。

 ほかにも、三木氏は自身でも社内向けの研修を企画してクラウド人材の育成に貢献している。その中で、「営業活動など、直接お客さまと対話する人は、自分の言葉でクラウドを語ることが重要だ」と説く。

 これに対して富田氏もまた、「お客さまと話をしていても、日立からクラウドの一般的な話を聞きたいのではないと言われる。日立のクラウドは、業務や社会インフラを支えるシステムを乗せていることが特徴で、そういうシステムを乗せたときにクラウドがどうなるのかをお客さまは知りたい」とし、続けて「私たちの体験を通した知識や課題感、三木が話したように自分が相対するシステムがどうなのかを、私たちが自分の言葉で話すことが大切になってくると思う」と、クラウドを多方面から語ることが重要だと説明した。

 CCoE立ち上げ当初は、Go To Market(GTM)の観点から「Japan AWS Top Engineer Partner Program」に応募。これまで行ってきたクラウドへの取り組みを社内外に発信するなど、よりAWSパートナーとしての取り組みに注力し出したという。

 Japan AWS Top Engineer Partner Programは、APNに参加している会社に所属するAWSエンジニアを対象にした日本独自の表彰プログラム。特定のAWS認定資格を持ち、会社を超えてパブリックに技術力を発揮した活動の実施や、技術力を発揮した活動や成果がある技術者をAWS Japanが選出している。

 2020年、「AWS Top Engineers」に初めて三木氏が選出。2021年以降はAWS Top Engineers の中でも、AWSに関するより高いレベルの知識を持つ「AWS Ambassadors」に富田氏、三木氏が3年連続で認定されている。「AWS Ambassador Partner Program」は、APNの技術専門家を選出し、コミュニティーを形成するためのグローバルプログラム。公開プレゼンテーションやSNSなどを通してAWSの技術的な専門知識を共有し、自身の技術スキル・クラウド知識を研さんする専門家をAWS Ambassadorsとして認定する。

 富田氏と三木氏が認定されたことを契機に、日立ではAWSの表彰プログラムに対する意欲が盛り上がりを見せた。その一方で今後はいかにスケールするかが課題になると富田氏。AWSなど、社外の表彰プログラムに自社のエンジニアが名を連ねることで営業にとっては顧客に対して提案活動がしやすくなるのだという。「提案活動では、ベンダーとどれくらい協業しているか、認定エンジニアの人数、案件実績、あとは“日立だからできる技術的な魅力”をお客さまは見ている。だからこそ、まずはクラウドベンダーのAWSが提供しているTop Engineer Partner Programに応募しなければと考えた」(三木氏)

 最近ではクラウド専業のベンダーがAWS Top Engineersに多数選出されるようになり、日立としても活動を絞りながらいかにGTMを目指していくか模索しているという。三木氏は「(AWS Top Engineersの選出は)企業の規模を問わず激戦区になっていて、マルチベンダーの中でいかに日立のエンジニアが名前を上げられるかを考えたい。富田とはどのようにエンジニアをプロデュースしていくかを話し合っている。お互い中間層だからこそ、人や組織のことがおおよそ分かるし、優秀なエンジニアを表に出して目立たせたい」と今後の展望を語る。

 エンジニアのレベルを上げることに注力したいとする一方、業務の中で新しい技術を学ぶのは時間やコストの面から会社の支援も必要になる。富田氏は、「中間層の私たちがバリューの置き方や会社としてのサポートを考えなければならない」と、人材育成の課題を示す。

 クラウド技術やサービスの進化が目まぐるしい中で、トレンドをキャッチアップするために日立ではコミュニケーションツールを用いてエンジニア同士でクラウドに関する情報交換を行っている。コミュニティーには500人を超えるエンジニアが参加しており、顧客の名前を出さないなどの規則に従って、携わった案件や新しいサービスの情報、イベント、資格についてなどを投稿しているという。

 AWS Ambassadorsに認定されたことで変化したことを尋ねると「自分たちの名前を知ってもらえる機会になった」と三木氏。社内の技術支援や営業の同行など、社内のさまざまな相談が来るようになり、AWS Ambassadorsとして要望に応えている。ほかにも、各事業部門の直接の利益にならないが、日立全社でやらなければならない活動への取り組みや、AWSが主催するクラウドに絡んだコンソーシアムに参加しているという。

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