IBM上級幹部が語る「日本への投資を増強している理由」とは
今回は「IBM上級幹部が語る「日本への投資を増強している理由」とは」についてご紹介します。
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本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、IBM シニア・バイスプレジデント ソフトウェア 兼 チーフ・コマーシャル・オフィサーのRob Thomas氏と、SAPジャパン バイスプレジデント Enterprise Cloud事業統括の稲垣利明氏の発言を紹介する。
日本IBMは先頃、年次イベント「Think Japan」を都内ホテルで開催した。冒頭の発言は、米IBMから来日した上級幹部のRob Thomas(ロブ・トーマス)氏がその基調講演で「IBMは今、日本への投資を増強している」として、その理由について述べたものである。
「日本は今、再興の時を迎えている」とはどういうことか。Thomas氏は「経済状況や企業の収益性、環境への対応など、さまざまな要素があるが、最大のポイントは生産性向上の余地がまだまだあり、その余地をテクノロジーでカバーしていける可能性が極めて高いことだ」と説明した。
そして「とりわけAIを有効活用すれば、現状の仕事の30%を自動化して深刻な人手不足を解消できる。そうすれば、日本の生産性は40%向上させることができると、IBMでは見ている。これにより、日本は大いに活気づいていく」と述べた。Thomas氏の口調は淡々としていたが、その内容は実に大胆なものだった。
AIについては「生成AIが注目されて活況を呈しているが、影響力の大きさを考えれば、まだまだ初期段階だ」とし、「ゆくゆくはAIが世界経済をけん引していくだろう」との見方を示した。
その上で、Thomas氏はIBMが2023年5月に発表したAIプラットフォーム「IBM watsonx」(以下、watsonx)について説明した。
watsonxは、さまざまな「基盤モデル」に対応したAI活用のための「watsonx.ai」、そこで多様なデータを活用できる「watsonx.data」、AIやデータ活用のガバナンスに対応した「watsonx.governance」からなり、これらを「Rad Hat OpenShift」によってハイブリッドクラウド環境で利用することができる。なお、IBMでは生成AIや大規模言語モデル(LLM)を包含して基盤モデルと呼んでいる。
こうした構成からも分かるように、watsonxの大きな特徴は、生成AIだけでなく、それを生かすデータ活用やガバナンスのツールまで用意されている点だ。IBMではこれをして「ビジネスのためのAI」と強調している。
また、watsonxを展開するに当たり、IBMはAIに対する信念として「オープン(Open)」「信頼(Trusted)」「明確な対象(Targeted)」「力を与える(Empowering)」の4つを挙げている(写真1)。「オープン」は、マルチ基盤モデルに対応し、オープンなクラウドネイティブ技術を基本としていること。「信頼」は、信頼できる学習データを利用し、AIライフサイクルを「見える化」していること。「明確な対象」は、ビジネス課題の解決に集中するとともに、特定用途向けに追加学習できること。「力を与える」は、顧客企業のAIモデルを創造するとともに、あらゆるシステム環境で動くことだ。
Thomas氏は、これらを「IBMならではのAIに対するユニークなアプローチだ」とも語った。
同氏の話からすると、IBMが今、日本への投資を増強しているのは「生産性向上の余地が大きい」からだ。筆者にはこれが「日本はまだまだ甘い」と、同氏の叱咤激励に聞こえる。日本は奮起すべき時だろう。