世界の労働力不足に立ち向かう–“同僚”としてのロボット「ANYmal」とは
今回は「世界の労働力不足に立ち向かう–“同僚”としてのロボット「ANYmal」とは」についてご紹介します。
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在日スイス大使館は、「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)へのパビリオン出展に向けて、2022年9月からコミュニケーションプログラム「『Vitality.Swiss』-ゆたかな未来って?」を展開している。スイス・パビリオンでは、「ヘルシーライフ」「持続可能な地球」「人間中心のイノベーション」を柱とした展示を予定しているという。
同大使館は11月、Vitality.Swissの一環として、AIと量子技術をテーマにプレスツアーを開催。本記事では、巡回点検業務を行う四足歩行ロボット「ANYmal(アニマル)」を開発・提供するANYboticsの取り組みに焦点を当てる(Vitality.Swissシリーズの3本目)。
ANYboticsは、スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)のスピンオフ企業。スイスでは少子高齢化が進んでおり、連邦統計局が2017年に実施した調査では、平均寿命が83.4歳である一方、出生率は1.5人にとどまっている。ANYboticsは労働力不足の対応策として、ロボットと人間の協働を提唱している。
ANYboticsは20カ国以上に進出しており、現在110台が稼働している。顧客は、石油/ガス会社が全体の約半数を占めているという。ANYmalの機能として、(1)稼働中の資産監視、(2)熱異常の特定、(3)ガスの存在検出、(4)デジタルモデルの作成と更新――がある。
(1)では、設備のデジタル測定値を把握して状態を確認し、資産を頻繁に監視してパターンや異常を特定する。(2)では、熱の測定値を取得して機械/電気的な問題を評価し、熱異常を特定してオペレーターに検知。(3)では、ガスの濃度レベルを継続的に監視してガス漏れを検知し、事前に定義されたガスマッピングを通して漏れの原因を特定。(4)では、定期的に施設のリアリティーキャプチャー(物体を3次元化する手法)を実施し、ビルディングインフォメーションモデリング(BIM:建物のコンピューター上での再現)やデジタルツインシステムを更新するとともに環境変化を追跡する。
同ロボットのペイロード(可搬重量)は15キログラム。バッテリー駆動時間は90分間、70%まで充電するには10分、フル充電には3時間かかる。
ANYmalの特徴として、ANYboticsでグローバルバイスプレジデント ストラテジックアライアンス&パートナーシップを務めるSatschin Bansal氏は「完全自律型」を挙げる。「基本的に、どのエリアを点検するのかを指示すれば、ANYmalは点群データを作成し、業務に向かう。業務が終わると、充電のためにドッキングステーションへ接続し、また戻っていく。皆さんが知っているロボット掃除機のようなシステムである一方、より複雑かつAIで駆動されている」(同氏)
加えて同ロボットは、防塵(ぼうじん)防水仕様となっており、湿気やほこりの多い環境でも動作する。有害物質にさらされた場合も、水洗いして汚染を取り除けるという。「鉄道で点検を行う場合、何日間も外にいるので防水でないと困る。鉱山に入ったら砂だらけになるので、防塵でなければならない」とBansal氏。2024年には、防爆仕様モデル「ANYmal X」を発売する予定。同ロボットは世界で唯一、防爆認定を受けた脚式ロボットだという。
「労働力不足は生産性の低下に加え、問題の見落としにつながる」とBansal氏は指摘する。ガス漏れなどの問題を発見できなければ、危険をもたらすだけでなく、多くのコストが発生してしまう。一方、同氏は「ロボットは人間に取って代わるべきではない。われわれは自社製品を『同僚』と呼んでいる」と力を込める。「当社がやろうとしているのは、人々を危険地帯から解放し、他の業務を行えるようにすること。人間をロボットに置き換えるのではなく、人間とロボットが一緒に仕事をすることである」
加えて、ANYboticsは「自社製品をいかなる軍事活動にも活用しない」という厳格な行動規範を持っている。「機関銃を抱えたANYmalを見ることはない。その点に厳しくあることについて、われわれは誇りに思っている」とBansal氏。
ANYboticsは日本での展開も進めている。同社は2023年7月、世界の電子機器を日本向けに販売する日本バイナリーとの提携を発表し、再販パートナーとして契約を結んだ。両社は日本における潜在顧客の特定などに取り組んできた。
ANYboticsでは通常、導入を検討する企業が自社の課題を伝えた上で、約3カ月間のパイロット運用を行う。パイロット運用期間中は、訓練を受けた日本バイナリーのスタッフが操縦のノウハウを企業に伝達する。「2024年の初頭までには、日本で最初の販売を行いたい。確かに潜在顧客はいるので、見込みはある」とBansal氏は自信を見せる(取材協力:在日スイス大使館)。