身近な所から始める業務変革–漸進型イノベーションの進め方と着眼点
今回は「身近な所から始める業務変革–漸進型イノベーションの進め方と着眼点」についてご紹介します。
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DXの実践施策は多岐にわたります。データや先端的なデジタル技術を活用した新規ビジネスの創出が注目されがちですが、既存事業における業務プロセスの高度化や働き方改革など、業務現場の身近な業務変革を含む漸進型イノベーションも重要なDX施策の打ち手といえます。
具体的なDXの実践には、業務の高度化や顧客への新規価値の創出を行う「漸進型イノベーション」と、新規ビジネスの創出やビジネスモデルの変革を行う「不連続型イノベーション」の2つのタイプがあります。前者は、主に既存事業を対象とし、デジタル技術やデジタル化したデータを活用して、業務の在り方を大きく変革したり、これまでできなかったことを実現したりします。一方、後者は自社がこれまで展開してこなかった事業分野に進出したり、新しい市場を切り拓いたりするものです。
両者は、推進のアプローチや目指すゴールが異なります。DXに関する議論がかみ合わない状況を度々目にしますが、多くの場合、この両者の違いを明確にしていないことが原因と考えられます。これは、2019年に邦訳が出版された「両利きの経営」(チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン著、東洋経済新報社)が示している考えと同様であり、同書では企業はこの両方ができるようにならなければならないと述べています。従って、「漸進型イノベーション」と「不連続型イノベーション」もどちらも重要なDX施策といえます。
さらにDXの実践施策を、提供価値と顧客層・市場という2軸で整理すると、「社内業務の変革」「既存顧客への新規価値の創出」「事業領域の開拓・拡張」「新規ビジネス/サービスの創出」の4つのタイプに分けることができます(図1)。
DX施策といえば、データや先端的なデジタル技術を活用した新規ビジネスの創出が注目されがちですが、それだけがDXではありません。社内業務の変革は、これまでのIT活用の範囲でありDXではないという指摘も聞かれますが、ここまでが「通常のIT化」で、ここからが「DX」といった線引きにはあまり意味がないことです。
新旧を問わずITやデジタル技術を活用することで、新しい価値を生み出し、デジタル時代に適合する企業に生まれ変わることがDXの本質であり、4つのタイプの施策を着実に進めることが重要です。これまでIT化が進んでいない業務分野があるのであれば、それを着実にデジタル化する施策もDXの一環と捉えて取り組むことが次の一歩につながると考えるべきです。
また実際に、不連続型イノベーションを創出した事例を詳しく分析すると、社内業務の変革や既存顧客への新規価値の創出といった漸進型イノベーションから派生して生まれたものも少なくありません。今回は、既存事業の強化や高度化を目指す漸進型イノベーションの進め方と着眼点について考察します。
デジタル化によって現場業務を効率化したり、省力化したりすることも有効な施策ですが、さらに一歩進めて、業務そのものを不要にしたり、これまでできなかったことを可能にしたりするような施策を実現するためには、現状の延長線上にあるような発想ではなく、これまでの常識を打破するような斬新なアイデアが必要となります。また、これまで業務改善のための情報化では、まず事業部門の現場スタッフなどへのヒアリングによって課題や業務要件を引き出すことが一般的に行われてきました。しかし、DXではこの手法が通用しない場合があります。
デジタル技術を活用した革新的なアイデアを発想するためには、ゼロベースで適用の可能性を探ることが求められます。これに対処する一つの方法としては、AIなどのデジタル技術を理解しており、他社での適用事例をたくさん知っている人が、先入観を持たずに業務現場をじっくりと観察して適用可能性を探ることが挙げられます。社内のIT担当者や社外のコンサルタントのような人材は、業務知識が不足している点がしばしば問題視されますが、あまり詳しく知らない方がゼロベースのアイデアや斬新な発想が生まれやすいということもあります。
また、デジタル技術を詳しく知らない現場スタッフに対しては、「どのようなことが可能となるのか」「他社ではどのような活用事例があるのか」といったことについて啓発し、潜在的な課題の発見や新しいやり方への気づきを呼び起こすという方法も考えられます。実機や試作品を使ったデモなどで体感してもらうことも有効といえます(本連載「現場業務をデジタルで高度化するには–ビジネス最前線でのデジタル活用の着眼点とアプローチ」参照)。