データ基盤でDXの本丸へ–テプコシステムズのアジャイル変革体験記(前編)
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東京電力(東電)グループは、2023年11月にデータプラットフォーム「TEPCO Data Hub」を構築し、DXの取り組みを本格化させようとしている。それをITで支えるのが、東電グループのテプコシステムズだ。アジャイル組織への変革の歩みを進める同社の取り組みを取締役 常務執行役員の沼田克彦氏とビジネスアジャイルセンター 副所長の望月大輔氏に聞いた。本稿は、前編としてアジャイル推進体制を整えるまでの苦難と成果を紹介する。
テプコシステムズは、東電グループ唯一のIT企業として、発電や送配電、小売、再生可能エネルギーなどのグループ各社における基幹業務システムやインフラの企画、構築、運用、保守などを担う。沼田氏は、東電側で長らくIT関連の要職を歴任し、2021年4月から現職を務める。望月氏は、テプコシステムズ側で東電向けの各種プロジェクトに携わり、2018年から同社のアジャイル化を推進している。
東電グループがTEPCO Data Hubを志向した背景には、社会や市場の大きな改革がある。構築直後のIT関連イベントで講演した東京電力ホールディングス 常務執行役の関知道氏によれば、2016年の電力自由化や2020年の送配電分離を経て、現在は世界的なカーボンニュートラルの推進の変化に対応すべく、東電グループとしてのDX推進を掲げている。電力設備や顧客などに関する情報、グループ社員の経験やノウハウを資産と位置付け、それらにまつわるデータを取得、蓄積、活用、外部連携するための基盤として、TEPCO Data Hubに取り組んできた。
電力自由化への対応当時の状況について望月氏は、「基幹システムの開発や保守を担う中で、市場や組織の環境が大きく変わり、スマートメーター化をはじめとするデジタル活用やグループ各社のバリューチェーンの刷新といった取り組みの流れに追いつけないのではないか危機感を強く感じていた。各部門からの業務改善などの相談にも対応しきれなくなるなど、従来の決められたものだけでなく、さまざまな要件をくみ取りながらアジャイルにやっていかなければならないと考えた」と振り返る。
一方で、この頃に東電側でシステム企画を担当していた沼田氏は、「デジタルツインなどの概念も登場し、例えば、発電所や変電所のデータを活用してメンテナンスを改善したり、RPAで業務を改善したりできないかといった声があちらこちらから出始めていた。他方で、システム側は基幹システムをきちんと守らなければならないという意思が強かったと思う」と述べる。
グループを取り巻く環境の変化やグループ各社からの多様な改善の要請が来る中で、望月氏は、テプコシステムズが新たな取り組みを実践していくための場として、2018年に「tepsys labs」を立ち上げる。ここでは、東電グループ各社や外部の協力パートナーなどの人材が集い、アイデアなどを創出するオープンスペース、人材育成や能力開発を推進する研修スペース、アイデアを基に短期開発や概念実証(PoC)などを行うプロジェクトスペースの3つの機能を当初から持たせた。
「新しいやり方を学びながら、同時にアイデアの具体化を実践していくことが必要だと考え、導線を工夫した。われわれは、ウォーターフォールやJavaでのスクラッチ開発などは得意だったが、さまざまな技術を組み合わせての高速開発や新しい技術への取り組みが弱かったため、tepsys labsにいろいろ持ち込んで開発していくスタイルを意識し、ビジネスパートナーや新技術を持つベンチャーの力も借りながら共創に取り組んだ」(望月氏)
tepsys labsでは、例えば、3Dプリンターの業務や事業への適用検証を実施したり、コロナ禍での在宅勤務の拡大に対応するための仕組みの整備や、東電の「カイゼン活動」のデジタル適用を支援したりするなど、数多くのプロジェクトを実践。人材育成なども精力的に進め、東電グループ全体でアジャイルを実践していく機運が高まっていったという。
ただ、一方的にアジャイルを推進するのではなく、ガバナンスの確保にも努めた。沼田氏は、「PoCのたたみ方で苦労した部分もある。挑戦意欲は大切だが、期限を決めなければそのままになったり、進行しているプロジェクトが優先されたりする状況が生じた。こうした状況を受け、東電側では、PoCに対するガバナンスについて議論し、プロジェクト状況をきちんと評価し、システム化するまでのステップを整えた。(新しい取り組みを)推進したい側と(ガバナンスを)きちんとしたい側の葛藤があっただろう」と述べる。これまでにPoCを全体で管理し、基本的には1年間を期限としてPoCを行い、四半期ごとに超過案件などの状況を評価するようにしている。