ヤンマーに聞く、個別のユースケースを統合してビジネス変革のステージへ(後編)

今回は「ヤンマーに聞く、個別のユースケースを統合してビジネス変革のステージへ(後編)」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営、先進企業が語る「DX組織論」等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 前編で紹介したように、ヤンマーホールディングス(ヤンマーHD)ではわずか2年で現場を起点としたトップダウンのDX推進サイクルが回り始め、社内文化の改革も進みつつある。そして草の根DX活動以外にも、取締役 DX担当(CDO) AI戦略推進部長である奥山博史氏の主導の下で着実にデジタル中期戦略は進められ、取り組みは次なるステージに突入している。

 デジタル推進組織自体も、2年前と比較すると進化を遂げている。まず、2024年4月にグループ内に散在し埋もれていたAI開発のケイパビリティーを統合し、AI戦略推進部としてヤンマーホールディングス直下の組織に引き上げた。そのトップも奥山氏が務め、ホールディングスの経営層に近い場所で機械学習や生成AIの取り組みを進められるようにしている。

 デジタル戦略推進部自体の人員も、当初の1.5倍程度の体制に拡大し、奥山氏が最高情報責任者(CIO)、最高情報セキュリティ責任者(CISO)を兼務することでアクセルを踏む判断がしやすい陣容が整っている。実際の業務システム開発やインフラ構築・運用を担う情報子会社とも人事交流を進め、デジタルとITの領域でお互いの役割を理解し、スムーズな連携がとれるように組織が成長した。

 「変革の取り組みを進めるに当たってはトップの発信が重要なので私が表に出ることが多いが、私は各社・事業部を訪問してメッセージを発したり、各ベンダーとのやりとりに参加したりしてデジタル化の世界観を描きつつ、実務は周りの人がするという形で、チーム力を最大限生かしながらデジタル化を進めている」(奥山氏)

 デジタル化の基盤については、6月にデータドリブン経営の基礎となるデータ活用基盤も整備され、現在基幹システムをはじめとする社内に散在するデータを同基盤上に移管する作業に入っている。さらに基幹システム自体のモダナイゼーションも、段階的に始まっている状況だ。また、アプリケーションレイヤーでも2023年段階でヤンマー版の「ChatGPT」を構築済みで、自社のデータベースとつないだ生成AIを活用し、前編で紹介したように複数の業務支援アプリを構築している。

 それらの取り組みを改めてデジタル中期戦略の4つの重点取り組み事項に照らし合わせても、DX推進体制の下でそれぞれが確実に前に進んでいる。(1)基盤となるインフラの整備とセキュリティの強化と(2)データ基盤の再構築とモダナイゼーションでは、データ基盤が完成して基幹システムのモダナイゼーションが始まり、(3)草の根DX施策組織化・グループ展開によるDX気運の醸成と人材の確保で、AIやノーコード、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)などの個別のDXのユースケースが集まっている。さらにこれからデータ基盤やデジタルツールを活用して、(4)データ活用・分析が進んでいくという道筋ができている。

 このようにデジタル中期戦略が軌道に乗った段階で、現在ヤンマーHDがチャレンジしているのが、ビジネスモデルのトランスフォーメーションである。「ビジネスモデル変革は、トップダウンで進めると掛け声だけで終わりがちになる。一方で現場発だと、なかなか最後まで進まない。そこで両方での取り組みが求められるが、この2年でボトムアップの取り組みが加速してきたので、トップダウンでトランスフォーメーションに取り組めるステージに立てた」と奥山氏は現状を説明する。

 そこでこれからは、個々のDXの取り組みをつなげて全体最適化していく作業、つまり従来の個別最適だったデジタル化を全体最適の視点で進めていくフェーズに突入する。そこで奥山氏は、デジタル化の取り組みを俯瞰的な視点で表現した「4ステップのフィードバックループ」というフレームワークを新たに導入した。デジタル化の取り組みを横串でつなぎ、4つのサイクルを高速で回せるようにして、最終的に経営や事業の意思決定スピードを高めていくことを見据えている。

 「ビジネスを進める際には、基本的なステップがある。課題を設定してそれを解くために必要な情報を集め、そこから意思決定をしてアクションを起こすまでが一連の流れとなるが、さらにそこからのフィードバックを基に再度課題を設定してサイクルを回すというループが存在する。デジタル化する真の目的は、そのループを高速で回せるようにして、製品や我々自身が進化するスピードを最大化することだと考えている」(奥山氏)

 これまで取り組んできたデータ基盤の構築と、前編で紹介した機械学習、生成AI、ローコード、RPAなど草の根DXの取り組みは、フィードバックループの各項目にある個別のユースケースという位置付けとなる。今後はそれぞれの点が線となって有機的にループし、全体を最適化・高度化させるという視点を持った上で、デジタル化を進めていく。

 「業務システムのモダナイゼーションも単にレガシー化している基幹システムを入れ替えればよいという問題ではなく、フィードバックループが自働的に回るような形になっていることが重要。そこを明確に打ち出して取り組んでいる。それを意識し、開発を担当する情報子会社との人事交流も含めて4つのループを回していくようにする」(奥山氏)

 各事業領域においても同様で、トップダウンによってエンドツーエンドで一体となってデジタル化していくという全体構想を持った上で、個々のユースケースづくりに取り組んでいる。現在は「代表的な3事業において事業のタスクをどうこなしているかをまとめ、それぞれに対してデジタルやAIをフル活用した際の10年後のあるべき姿と、そのためのKPI(重要業績指標)を洗い出している」(奥山氏)という。これによって、今後のビジネスのトランスフォーメーションにつなげていく構えだ。

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