林立する中国産OS、成功のカギはどこにある?
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
2024年7月、米CrowdStrikeが提供するセキュリティソフトウェアのアップデートが原因となり、世界で約850万台の「Windows」デバイスにシステム障害が発生した。この問題は多くの国で影響を及ぼしたが、中国はほとんど影響を受けなかった数少ない国の一つだった。この出来事は中国のメディアで広く報道され、米国の輸出規制と技術制裁の強化を背景に、中国産OSの普及を加速させようという動きがみられた。また、「CentOS 7」のサポートが6月に終了したことも後押しとなっている。
報道によると、中国が今回の大障害を回避できたのは、CrowdStrike製品が国内でほとんど利用されていなかったためだという。国家安全保障を確保するため、中国政府は外国製のシステムへの依存を避け、国内技術の開発に力を入れてきた。例えば、華為技術(ファーウェイ)は独自の「HarmonyOS」やプロセッサーを開発している。セキュリティソフトも同様に、米国製品を導入する中国企業はほとんどない。中国では国内向けのサービスは国内のサーバーで運用する必要があり、米Microsoftも中国向けのサービスを世界から分離する形で事業を展開している。外国企業が市場に参入しにくい一方、中国企業が台頭する構図となっている。実際、中国のサイバーセキュリティ市場は、主に国内企業によって占められている。
外国製OSの不具合をやり玉に挙げ、中国の独自OSは安全だと主張するが、中国製OSでも問題は起きている。例えば、HarmonyOSでは多数のユーザーがアップデートを行おうとしたことで、アクセスが集中し、サーバーが一時ダウンしてしまった。デスクトップ/サーバー向けの「統信UOS」もシステム障害を引き起こしている。
開発者の間では、「Linux」ベースのOSが堅固であっても完全には信頼できないという意見が存在する。それによると、Linuxシステムが自律的かつ制御可能であるという考えは誤解という。なぜなら、Linuxカーネルのコードは厳しいレビュープロセスを経ており、その多くは国際的な専門家チームによって行われているため、特定の国が自由に変更を加えることは困難である。さらに、Linuxの開発方針や知的財産権はオープンソースコミュニティーによって管理されている。したがって、中国が完全に独立したOSを開発するには、独自のプログラミング言語、開発ツール、そして独立したカーネルが必要となる。
中国では昨今、多様な国産OSが登場し、市場における存在感を増している。前述したHarmonyOSや統信UOSのほか、「銀河麒麟(Kylin OS)」や小米科技(シャオミ)の「澎湃OS(HyperOS)」、vivoの「原OS(Origin OS)」なども開発されている。さらに、阿里巴巴(アリババ)はスマートカーなどに対応するIoT OSをリリースしている。2024年8月に開催された「2024中国操作系統産業大会(2024年中国OS産業カンファレンス)」では、AI技術を統合した新しい国産デスクトップOSが披露された。また、国産OSの普及を促進するための一連の政策も発表された。
HarmonyOSは当初、Androidとの互換性を保ってきたが、現在は独自の道を歩み始めている。独自OSの普及には、対応するソフトウェアとその開発者が不可欠だ。このソフトウェア不足を解消するため、HarmonyOSのインフラエンジニアやシステムアーキテクトなどの特定の職種に対して、年収100万元(約2000万円)という高額な報酬を提供している企業や組織が存在する。さらに人材育成の一環として、清華大学、上海交通大学、ハルビン工業大学などの有名大学を含む全国の多くの教育機関がHarmonyOSに関連するコースを提供している。これらの取り組みは、政策によってさらに拡大しそうだ。
ただ、将来の展望が明るいかどうかは不透明な部分がある。前述の通り、多数の国産プラットフォームが台頭しており、それぞれのプラットフォームに合わせた専用アプリケーションの開発が必要になっている。このような競争は、システムアーキテクチャーや開発プラットフォーム、アプリケーション開発者、ハードウェアメーカーの分散を招く可能性がある。現在、国産化の流れがあるスマートフォンOSについても、Androidを除外することは、既存のハードウェアの普及や蓄積されたソフトウェア資産、豊富な開発者リソースと充実した開発ツールを考慮すると現実的ではないだろう。中国経済が低迷している中、日本を含む世界市場に向けてソフトウェアを展開する過程で、Androidエコシステムでの開発者の役割は引き続き重要であると言える。
複数の国産システムが台頭している現状は、日本がかつて経験した光景のようだ。これらのシステムを支えるエコシステムを構築するためには、開発者の育成と確保が不可欠であり、中国産OSが成功するためのカギとなるだろう。