AI開発にオープンソースイニシアチブで貢献–The Linux Foundationの取り組み

今回は「AI開発にオープンソースイニシアチブで貢献–The Linux Foundationの取り組み」についてご紹介します。

関連ワード (データマネジメント等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 香港発–The Linux FoundationのエグゼクティブディレクターであるJim Zemlin氏は「Open Source Summit China」において、同氏が中国で話をした人は皆、人工知能(AI)について語りたがっている、と述べた。それは世界の他の国々でも同じはずだ。

 Zemlin氏はさらに、The Linux Foundationがオープンソースソフトウェアイニシアチブを通じてAI開発に多大な貢献をしていることを強調した。同氏はオープンソースの原則がAI開発に寄与している重要な分野をいくつか挙げた。

 微調整された特化型モデル:The Linux Foundationは、エンタープライズ環境で特化型AIモデルを展開するための標準の策定を目指す「Open Platform for Enterprise AI」のようなプロジェクトに積極的に取り組んでいる。このイニシアチブの目的は、共同作業を促進して、AI技術の展開を合理化することだ。

 Zemlin氏は次のように語る。「北京で見た阿里巴巴(アリババ)の講演は、すい臓がんの早期発見のためのAIアプリケーション開発に関するものだった。このアプリケーションはすでに中国において、可能な限り早期のすい臓がん発見に貢献し、人命を救っている」。これは素晴らしいことだ。

 大規模言語モデル(LLM):「Mistral」や「Llama 3」などのセミオープンソースモデルは急速に進化しており、完全なプロプライエタリーモデルに匹敵する性能のモデルも少なくない。The Linux FoundationはこれらのLLMの開発を支援して、企業がクローズドシステムの制約なしに強力なAIツールを活用できるようにしている。

 「これに関しては、『Hugging Face』のようなプラットフォームが明白なリーダーだ」とZemlin氏。「オープンモデルをダウンロードして利用できる全体的なエコシステムがある。これにより、開発者は幅広いAIアプリケーションにアクセスして活用することができる」

 AIの安全性:「オープンソース開発の透明性は、AIの安全性に関する懸念に対処するうえで特に有効だ」とZemlin氏は指摘した。「The Linux Foundationは、ツールと標準に関する共同作業を促進することで、コンテンツの信頼性、プライバシー、アルゴリズムの偏見といった問題の解決を目指している」

 同氏は続けて、The Linux FoundationはオープンソースAIの促進への取り組みを強調する複数のイニシアチブを主導している、と述べた。それには以下のものが含まれる。

 「Open Model Initiative」(OMI):取り消し不能なオープンライセンスでのAIモデル開発を推進して、企業による採用の障壁を取り除き、広範な使用を奨励するプロジェクト。OMIは、かつてオープンだったモデルを企業がクローズ化するのを防ぐことも目的としている。

 「Acumos AI」:AIアプリケーションの構築、共有、展開用に設計されたオープンソースプラットフォーム。AI開発に必要なインフラストラクチャーを標準化し、開発者によるイノベーションを実現しやすくする。

 「PyTorch」:The Linux Foundationで最も急成長しているプロジェクトの1つ。機械学習とLLMの作成ツールとして支持されており、AI開発における同財団の役割をさらに強固なものにしている。

 「Unified Acceleration Foundation」:多様なシリコンアーキテクチャーで利用できる共通のアクセラレーションAPIを作成し、競争の促進とAIアプリケーション開発の簡素化を図るイニシアチブ。

 「Coalition for Content Provenance and Authenticity」:電子透かしによってコンテンツの信頼性を担保することに重点を置いた取り組み。これは生成AI技術の影響が強まる一方の世界において重要な側面だ。

 Zemlin氏は、AIという文脈における「オープン」の明確な定義を確立することの重要性も強調した。「Open Source Initiative」(OSI)がオープンソースAIの定義という重要な作業に取り組む一方で、The Linux Foundationは「Model Openness Framework」(MOF)を開発した。

 Zemlin氏は以下のように説明する。「MOFは、モデルがオープンであるかどうかを評価する手段だ。人間によるモデルの格付けを可能にする。よく耳にするのは次のような疑問だ。『Llama 3は本当にオープンなのか。この特定のモデルは本当にオープンだろうか。データがない。実際にどのように訓練されたか分からない』」

 MOFは、このような疑問の解決に役立つオープンフレームワークを提供する。LLMの開発と展開における不確定要素の多さを考えると、これは簡単な作業ではない。The Linux Foundationは、どの構成要素がオープンで、モデルに含まれているかを理解しやすくする評価システムを開発した。

 Zemlin氏はこう続ける。「オープン性を3段階とすることで意見がまとまった。最高レベルであるレベル1は、オープンサイエンスの定義だ。データと使用されたすべての構成要素、すべての指示がそろっており、全く同じ方法で独自のモデルを実際に作成できる必要がある。レベル2はそのサブセットで、実際にはすべてがオープンというわけではないが、大部分がオープンだ。レベル3では、一部の領域でデータが公開されない場合があるが、データセットを説明するデータは公開される。モデルがオープンだとしても、すべてのデータが公開されるわけではない、ということをある程度理解できると思う」

 同氏は次のように結論づけた。「これは、リスクベースのアプローチ、よりニュアンスに富むアプローチを採用して、何がオープンで何がそうでないかを理解するための素晴らしい方法だ。特定のモデルのオープン性を、データアクセス、モデルアーキテクチャー、訓練プロセスなど、さまざまな構成要素に基づいて評価することができる。このフレームワークにより、専門家はモデルの透明性を評価し、その使用について情報に基づく意思決定を下すことが可能になる」

 オープンソースとAIに関する専門家たちとの議論に多くの時間を費やしてきた筆者は、この段階的なモデルが今後の標準になっていくと予測している。

 全体として見ると、The Linux Foundationのイニシアチブは、AI技術を進歩させるだけでなく、それらの進歩が倫理的かつ責任ある方法で行われるようにする取り組みでもある。同財団はオープンソースの共同作業を促進することで、潤沢な予算を持つ巨大企業だけでなく、誰もがAIイノベーションに貢献して、その恩恵を受けることができる包摂的な環境を作り出そうとしている。

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