通信産業の今昔–自由化から40年間の栄枯盛衰

今回は「通信産業の今昔–自由化から40年間の栄枯盛衰」についてご紹介します。

関連ワード (ICT来し方行く末、ネットワーク等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 来年は2025年、通信自由化から40年を迎えようとしている。

 実は、2013~2015年に、ZDNET Japanで「通信のゆくえを追う」「情報通信技術の新たな使い方」という連載を書かせていただいた。そこから10年ほどが過ぎ、情報通信産業を取り巻く社会環境は大きく変わり、情報通信技術の利用法も変わった。そこで、10年前の連載記事の自己検証を含め、過去から現在、そして将来の情報通信産業の行く末について考えてみたいと思い、新たな連載を開始することになった。

 本連載は、若いエンジニアあるいはエンジニアの卵には産業の歴史を知ってもらい、未来の発展につなげていただけること、ベテランあるいは引退したエンジニアには過去を懐かしがっていただくとともに将来を考えるヒントになること、そしてエンジニアではない多くの方々にはエンジニアの視点や世界観をお伝えできればと考えている。第1回の今回は、通信が自由化された頃から現在までを、私自身の自己紹介と絡めてお送りしたい。

 1985年、当時の中曽根内閣が行った民営化策の1つとして、電電公社※1が「日本電信電話株式会社」(NTT)となった。国鉄(現JR)や専売公社(現JT)とともに「三公社」と呼ばれていたが、これらが民営化されたのである。このタイミングで通信業界に新規参入が可能になり、多くの通信事業者が産声をあげた。KDDIの母体の一つであるDDI(第二電電株式会社)や、今ではソフトバンクとなった日本テレコムなども設立されている。

※1:正式名称は、日本電信電話公社

 この頃の通信と言えば、電話であり、ファクシミリであり、企業向けに専用線サービスが提供されている程度であった。電話については、国内の特定地域内(いわゆる市内・県内電話)、国内長距離、国際と市場が3つのセグメントに分かれていたのである。

 さて、この通信の自由化は、利用者の立場では通信サービスの利用料金の低廉化という具体的な果実があった。しかしながら、現在の視点で顧みると、経済安全保障上の問題や日本の情報通信産業が国際競争力を失った一因という見方もあり、その良否の判断は分かれるところだろう。とは言え、当時の通信産業は成長産業ということで、通信事業者のみならず、通信機器メーカーなど周辺産業を含め活況を呈することになったのである。商社、自動車会社、鉄道事業者、電力事業者なども次々と通信市場に参入してきた。

 ほぼ時を同じくして、私自身は昭和最後の入学生として情報工学を学ぶ大学生となった。大学院時代は、超高速ネットワーク(とはいっても156Mbps!)を実現するATM※2の研究を行っていた※3。同じ研究室では、マルチメディア※4や、黎明(れいめい)期のインターネットを研究するチーム※5もあった。そういう研究室の学生であったことから、インターネットに触れたのは早かったが、世間にインターネットが浸透するのは、まだまだ先のことであった。

※2:Asynchronous Transfer Mode(非同期転送モード)。53バイトの固定長のパケット(セルと呼ばれる)をハードウェアで高速に交換することによりマルチメディア通信を実現する技術。
※3:当時の指導教授であり、後に大阪大学総長となる宮原秀夫先生も2024年鬼籍に入られた。時の流れを感じる。
※4:テキストデータのみならず、音声や画像をもまとめて処理すること。現代では当たり前だが、当時は研究テーマであった。
※5:「WIDEプロジェクト」の中心的なメンバーであったが早世してしまった山口英さん(2016年死去)は研究室の先輩。現在、奈良先端科学技術大学院大学で教授を務めている門林雄基さんは私の同期生である。

 そして就職の際、伸び盛りの通信産業に身を置くこととし、その中でも国際通信を担う会社に入ることとした。海外との通信は、海底ケーブルもあったが、まだまだ衛星(静止軌道衛星)が幅を利かせていた時代である。そんな牧歌的で成長著しい産業にも変換点が訪れる。インターネットの商用化だ。

 インターネットの黎明期、これは通信事業者が提供する「正規の通信」ではなく、学術研究者や一部のマニアがボランティア的に運営・利用する「おもちゃ」と認識されていた。ベストエフォートの通信を業務用に利用することなど、想像すらできなかった。

 それに、インターネットの技術はいわゆるデファクトスタンダードであり、ITU-T※6で認められた国際標準ではないこともその認識に加担していた。さらに言えば、通信事業者といえば世界中どの国においても巨大で歴史のある会社であり、ネクタイを締めたビジネスパーソンが働く組織だった。これに対しインターネットの世界は、Tシャツ短パンにビーチサンダルの世界だったのである。いま振り返って見れば、典型的な破壊的イノベーションである。

※6:International Telecommunications Union Telecommunication Standardization Sectorの略。国連の専門機関で、通信技術の世界標準勧告(いわゆるデジュール標準)を定めている組織。

 いずれにせよ、インターネットが商用化されたことで、利用者数は幾何級数的に増大し、これを支えるISP※7の数も激増した。ISPが利用するルーターやスイッチが飛ぶように売れ、インターネットを中心としたIT産業は熱気を帯びていた。米国シリコンバレーでは、有象無象のスタートアップが産声を上げ、ベンチャーキャピタルから莫大(ばくだい)な資金が流れ込み、赤字会社であろうとも、その株には夢のような値がついていた。

※7:Internet Service Providerの略。インターネットへの接続を提供する通信事業者。

 日本でもこの波に乗るべく、「IT革命」を経済成長の推進力に活用しようという空気感が漂っていた。時の総理大臣がIT革命を「イット革命」と発言したのを記憶している方も多いのではないだろうか。2000年ごろの話である。

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