中国政府が海外ネットユーザーに対して実施する「イデオロギーファイアウォール」とは

今回は「中国政府が海外ネットユーザーに対して実施する「イデオロギーファイアウォール」とは」についてご紹介します。

関連ワード (中国ビジネス四方山話、開発等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 中国のインターネットは他国と異なる特殊な環境で運用されている。いわゆる「グレートファイアウォール」(GFW)によって、中国からは通常のインターネット環境では「Google」や「X」などにアクセスできないことが知られている。これは、自国のネット環境を自国で管理するという方針に基づいており、海外のSNSなどのサービスは管理が難しく、不適切な情報が含まれる可能性があるため、アクセスを制限している。

 さらに、中国のSNSで特定のNGワードを入力すると、自動フィルタリングによって投稿がブロックされるか、ネット検閲員によって内容がチェックされる仕組みがある。このプロセスは秘密ではなく、中国国内でも検閲員の作業についての記事が公開されている。

 中国国外の在住者に対しても、中国のSNSなどのネット空間に不適切な情報を書き込まないように対策が取られていた。これは、非営利団体のOpen Technology Fund(OTF)が公開している「数字門檻(Blocked by Numbers)」というレポートに記載されている。この対策は中国語で「イデオロギーセキュリティファイアウォール」(意識形態安全防火墻)や「ネットワークセキュリティバリア」(国家網絡安全屏障)と呼ばれている。

 中国のネット環境を試そうとしたことがある人なら、アプリをインストールしようとしてもできなかった経験があるかもしれない。例えば、アプリストアにそのアプリが見つからなかったり、ダウンロードできても起動時に中国の電話番号や身分証番号、銀行口座の情報を求められたりすることが原因だ。外国人(国外在住者)にとっては中国のアプリを使いたくても使えない状況で、これは開発者の怠慢ではなく、意図的に外国人に利用させないための対策だとレポートは指摘している。

 中国では2010年から携帯電話番号を取得する際に実名登録が必須となった。中国電信(チャイナテレコム)、中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)の主要キャリア3社は、SIMカードを販売する際に本人確認を義務付けている。2015年には「バックエンドでは実名」の新しいオンラインアカウント管理原則が導入された。さらに、2017年に施行された「ネットワークセキュリティ法」(網絡安全法)では、ネットサービス提供者がオンラインサービスを提供する前に実名確認を行うことが義務付けられている(第24条)。

 そのため、中国のネットサービスを初めて利用する際には、通常、中国の携帯電話番号を使って実名登録を行う。しかし、2024年からは変化が見られる。国がネット利用者のIDを一元管理する国家認証サービスを開始したのだ。この国家インターネットIDシステムは、ユーザーの身元確認と個人データの処理を一元化し、ネットサービス事業者に過剰な個人情報を提供しないことを目的としている。各ネットユーザーにはIDが発行され、ネット企業はユーザー認証の際にそのIDを使用するよう求められている。

 中国国外に住む人々にとって、中国の電話番号登録が利用の大きな障壁となっている。レポートによると、58カ国で最もダウンロードされている中国の62のSNSアプリのうち、75%が電話番号による実名登録を必須としている。かつては、「支付宝」(アリペイ)などのキャッシュレスサービスで外国人の新規登録が受け付けられなかったり、パスポートの身分証ページの画像送信が求められたりしたのも、この方針が原因だ。最近では、インバウンド観光客を誘致するためにキャッシュレスやシェアサイクルなどの手続きが簡略化されているが、これは例外的なケースと言えるだろう。

 携帯電話の登録だけでなく、アプリストアでアプリが公開されていないためにダウンロードできないこともある。これは国や地域によって公開状況が異なり、例えば「TikTok」の競合アプリ「Kuai」(快手)は中東、北アフリカ、南米のアプリストアではダウンロードできない。日本では、欧州で利用が難しいコンテンツレビューアプリ「Douban」(豆瓣)が問題なく利用できる一方で、Q&Aアプリ「Zhihu」(知乎)は日本、香港、英国、米国、カナダからの利用に制限があり、地域によって利用の難易度が異なる。

 国際的に有名な「WeChat」やTikTokは特別なケースだ。WeChatは中国国外向けのアプリで、「微信」は中国国内向けであり、サーバーも異なるが、両者間での交流が可能な仕組みになっている。一方、TikTokは中国国外向けのアプリで、中国国内向けの「抖音」とは完全に別物であり、両者間での交流はできない。

 アプリストアにアプリがない問題については、APK版をダウンロードする方法もあるし、中国の電話番号がないと利用できない問題についても、海外で中国の電話番号を取得することは不可能ではない。海外には多くの華人・華僑がいて、中国にいる知人や友人、親族、ビジネスパートナーと連絡を取るために中国のサービスが必要だ。そのため、これらのネットのハードルは絶対的なものではないが、レポートによれば、中国国外在住者の中国サービスのダウンロード数を減らすのに一定の効果を上げたとしている。

 イデオロギーファイアウォールは、海外から中国のソーシャルメディアへのアクセスを遮断することで、中国への外部からの影響を効果的に制限してきた。また、この制限は国や地域ごとに調整可能だ。通信を完全に遮断するのではなく、必要に応じてインターネット上の情報へのアクセスを制限する手法を海外でも実施していると、同レポートは分析している。

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