小売DXで拡大するRFIDの役割–ファストリやクローガーも導入のAvery Dennisonに聞く
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ファーストリテイリング、Adidas、Macy’s、ブリヂストン――。RFID(Radio Frequency Identification)ソリューションを展開する米Avery Dennison(エイブリィ・デニソン)は、これらの企業の成長を「在庫管理」の側面で支えている。
1935年に米カリフォルニア州で創業したAvery Dennisonは、ラベルや機能性材料の設計・製造を行う企業。RFIDタグの開発・製造をはじめとしたソリューションは、同社部門の一つであるAvery Dennison Smartracが展開している。現在はオハイオ州に本社を構え、拠点数は世界50カ国以上に上る。2016~2024年のRFID事業における年平均成長率(CAGR)は約17%で、食品や物流など非アパレル分野での導入件数も増加している。
Avery Dennisonは2024年11月、大手スーパーマーケット「Kroger」を展開する米The Krogerとの協業を発表。Krogerはベーカリー部門を皮切りに、自社の商品にRFIDが内蔵されたラベルを貼り付け、在庫管理の自動化に取り組んでいる。
日本法人のAvery Dennison Smartracでマネージングディレクターを務める加藤順也氏に、小売業界において広がりを見せるRFIDの役割や同社の強みを聞くとともに、RFIDソリューションを体験できるオフィス併設のラボを取材した。
RFIDは、無線通信を用いて専用タグの情報を非接触で読み書きする技術。非接触での読み取りや複数タグの同時読み取り、耐久性や多様な形状、高い安全性などが特徴だ。同技術を活用するには、RFIDタグ、RFIDリーダーライター、処理システムが必要となる。物流や小売業界における商品の在庫管理をはじめ、医薬品や医療機器の管理、オフィスにおける従業員の勤怠管理にも活用されている。
小売業界におけるDXの進展に伴い、RFIDの用途は拡大している。近年はオムニチャネルの一環として、ECサイト上で各店舗の商品在庫を表示する機能が普及しており、消費者はECで欲しい商品を探して実店舗で試して購買することができる。ECで購入した商品を実店舗で受け取る「BOPIS」(Buy Online, Pick-up In Store)を採用する企業も多い。
ECと実店舗を横断した購買体験の実現には、在庫データの精度を高く保つことが必須となるが、小売企業では帳簿在庫と実在庫が一致していないケースが多く存在する。Avery Dennisonが日系小売企業12社を対象に実施した調査によると、全社を平均した在庫データの精度は76%にとどまり、49%しかない企業も見られたという。
在庫データが不正確だと、消費者は「ECで『在庫あり』と表示されていた店舗に行ったが、実際には欠品していた」という経験をするリスクがあり、ブランドイメージは大きく低下してしまう。こうしたリスクを回避するため、一部の企業では帳簿在庫が一定数を下回ったらECで「在庫なし」と表示しているが、今度は販売機会の損失が懸念される。
加藤氏は「在庫データの間違いに早く気付くには棚卸しをする必要があるが、RFIDを使うことでその頻度と精度を高められる」と説明する。
無人/省人化店舗市場の拡大もRFID活用の幅を広げている。米Amazonは2023年からAvery Dennisonと協業し、ウォークスルー型店舗を実現する同社の自動決済技術「Just Walk Out」にAvery DennisonのRFID技術を連携して小売企業に展開している。Amazonは、ナショナルフットボールリーグ(NFL)チーム「シアトル・シーホークス」のスタジアム内の店舗に同ソリューションを提供している。
RFID対応のウォークスルー型店舗では、計算の負荷が大きいAIカメラを設置する代わりに、全商品に独自のRFIDタグを取り付けることで、購買データの反映を迅速化している。来店客が出口ゲートを通過すると、ゲートに搭載のRFIDリーダーが商品付属のRFIDタグを読み取り、あらかじめ登録した支払先に代金が請求される仕組みだ。
小売業界のDXに加え、「不明ロス」(万引や管理ミスなどによる損失)の増加もRFID導入のきっかけになっている。Avery Dennisonが英国と米国の小売企業のシニアリーダー300人を対象に実施した調査によると、回答者の42%が「盗難は12カ月前よりも深刻な問題になっている」、64%が「盗難の影響が危機的状況に達している」と回答したという。その背景には、来店客による商品のバーコードスキャンにおける不正や間違い、二次流通市場の拡大やSNSでの万引手口の共有などが考えられる。
小売企業はRFIDを活用して商品の個品管理を行うことで、いつ、どこで、その商品が盗まれたのかを把握でき、適切な対応が可能となる。個品管理は、商品の購入後に偽物を返品する「返品詐欺」への対策にも役立つと見込まれる。