AIの科学研究利用は「急がば回れ」–信頼性確保に向けた反復的なアプローチ

今回は「AIの科学研究利用は「急がば回れ」–信頼性確保に向けた反復的なアプローチ」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 新年を迎えるということは、IT投資の焦点が新たになるということだ。調査会社Gartnerは、2025年の世界IT支出が前年比9.3%増の5兆7400億ドルに達すると予測している。生成AIの探求が支出の増加を後押しするという。

 今では多くの人が生成AIを試したことがあるはずだ。文章の推敲や写真の作成、コードの生成など、このテクノロジーの機能は魔法のように感じられる。

 しかし、Francis Crick Instituteの最高情報責任者(CIO)であるJames Fleming氏のように、自らの組織が誇大宣伝に流されることを許さないデジタルリーダーもいる。

 同氏は米ZDNETに対し、新興テクノロジーを革新的な科学的発見に役立てるのは簡単ではないと語った。この課題があるために、世界有数の研究機関であるFrancis Crick Instituteの作業方法は、生成AIが台頭しても大きく変わっていない。

 「科学でAIを使用することと、一般公開される大規模言語モデル(LLM)を作成することは、まったくの別物だ。制約が厳しい科学の世界に身を置く者は、自らの仮説を証明しなければならない」とFleming氏。

 「ほぼ正しいモデルを公開したと言うだけでは不十分だ。ほとんどの場合、特定の条件下では完全に正しいモデルを作成する必要がある。さらに、研究の成果が基本的な理解に基づいていることを実証しなければならない」

 Fleming氏は、科学分野におけるAIの使用を「諸刃の剣」と表現した。新興テクノロジーは研究プロセスの高速化に役立つ可能性があるが、新しい結論を生み出して提示する際には、高い確実性が求められる。

 「証明できることが極めて重要だ。現実世界のクリニックや医療機器に影響する可能性があるものを検討している場合は、なおさらだ」とFleming氏は語る。

 「例えば、あるイノベーションを臨床医に見せて、『このツールは、がんの進行を予測できると思う』と伝えたら、『本当にできるのか。仕組みを教えてくれ』と言われるはずだ」

 説明可能であるという点は科学研究において極めて重要だが、この焦点と、多くの一般的なAIモデルのブラックボックス的な仕組みやハルシネーション(幻覚:AIが事実と異なる情報を勝手に作り出してしまう現象)は相容れない。

 したがって、新興テクノロジーのプロセスを解明するために、Francis Crick Instituteは反復的なアプローチを使用して、研究者が確信を持ってAIモデルを採用できるようにしているという。

 「目標に向かって、ゆっくりと段階的に進んでいく必要がある」とFleming氏。「データの出所が明確で信頼できる、極めて焦点を絞ったアプローチを最初から採用している」

 Francis Crick Instituteの漸進的なアプローチは、研究者によるAIモデルの展開を2つの点で支援する。

 1つは、既存の科学的方法論の強化だ。Fleming氏によると、同研究所は5年前に顕微鏡検査でこの取り組みを開始したという。

 Francis Crick Instituteの顕微鏡検査施設は、極低温電子を分析し、組織や細胞、個々の分子の美しい高密度画像を作成する。

 しかし、美しい画像の作成は出発点でしかない。画像をデータに変換して、例えばがん細胞とそうでない細胞の違いを見分けるのに役立つ詳細情報を得られるようにする必要がある。

 Fleming氏のチームは反復的な取り組みにより、適切なモデルを使用すれば画期的な研究結果をより短期間で生み出せることを証明した。

 「AIモデルは、多くの面倒な作業を人間の代わりに実行できる。例えば、特徴の分析と抽出のほか、画像をデータに変換して、人間の理解を導く」と同氏は語る。

 Francis Crick InstituteがAIを使用する2つ目の分野は、発見に関するものだが、これには非常に厳しい制約がある。

 Fleming氏は、あるラボのパーキンソン病に関する研究を例に挙げた。その研究チームは、どの患者がパーキンソン病かを幹細胞の集団から特定する分類ツールを開発した。しかし、その仕組みを説明できなかったため、逆方向への研究を反復的に行った。

 「モデルの訓練後に、そのモデルをさまざまな統計的手法で逆方向に調べていくプロセスがあり、『実際のところ、主要なものは細胞の楕円率だ。より楕円形に近い。モデルがその後に抽出した特徴は他にも多数あった』という結論になった」

 このような結果は、それだけで答えになるわけではないが、次の研究を促すものであるという。「『確かに、細胞形態が異なる。なぜなのだろうか。次の実験では何をすべきなのか』。ここで反復的なアプローチが必要になる」

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