「DeepSeekショック」で世界を揺るがす中国AI産業–その実力と弱点とは
今回は「「DeepSeekショック」で世界を揺るがす中国AI産業–その実力と弱点とは」についてご紹介します。
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中国浙江省杭州市に拠点を置くDeepSeekは、限られた計算能力で高性能なAIモデルを無償提供し、多くの人々を驚かせた。さらに、米国のNVIDIAなどのAI関連企業や電力企業の株価や企業価値にも大きな影響を与えた。このような中国製品の急成長により、西側先進国が苦境に立たされていることは、中国人にとって喜ばしいことなのだろうか。DeepSeekショックに関する記事が多数投稿されている。
中国ではDeepSeekの採用が急速に進んでいる。字節跳動(バイトダンス)、百度(バイドゥ)、華為技術(ファーウェイ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)といった中国を代表する企業もAIモデルを開発しているが、各社は自社サービスにDeepSeekを採用する動きを見せている。現在、DeepSeekを採用していないのは、コンシューマー向け生成AI「豆包」(ドウバオ)などで国内トップのバイトダンスのみとなっている。
各地の行政機関、病院、電力会社をはじめとするインフラ関連企業など、さまざまな業界でもDeepSeekの採用が発表されている。これにより、例えば病院では過去の症例データを学習させてアドバイスを行うシステムの導入が進められている。
このように勢いに乗るDeepSeekに対して、「中国は今後AI分野で米国と競り合い、さらには追い越すことができるのか」という疑問も浮上している。
電力に関して言えば、必要な計算能力が減少すれば必要な電力も低下する。しかし、それは電力需要の恒久的な低下を意味するわけではない。技術革新によって計算効率が向上したとしても、普及が進むことで、全体としてはより多くの電力が必要となる。このように、技術革新によって資源効率が向上しても、結果的にエネルギー消費量が増加する現象は「ジェボンズのパラドックス」として知られている。
中国の発電量は、2011年に米国を追い越して以来、その差を拡大し続けている。過去には電力不足が懸念された時期もあったが、1989年には米国の10分の1に過ぎなかった発電量が、2003年には半分、2011年にはほぼ同水準となり、その後も増加の一途をたどっている。そして2024年には、中国の発電量は米国の2.2倍に達した。
中国の発電所には、沿岸部の原子力発電所と内陸部の三峡ダムなどの再生可能エネルギー発電所がある。特に内陸部の発電所は、西部内陸部のデータセンターと連携して安定した電力を供給し、東部沿岸部からのデータ処理要求に応える「東数西算」プロジェクトを推進している。データセンターではAI関連の処理が行われており、このニーズの拡大とともに同プロジェクトも進展している。さらに、電力業務においてAIを活用した効率化が図られている。このような状況から、AI関連の需要拡大に伴う電力供給の問題は、中国よりもむしろ米国においてより深刻化する可能性が高いと考えられる。
ただし、この状況は、中国が今後も国際市場で流通しているGPU、FPGA、ASICなどの半導体を調達できるかどうかに左右される。米国は、中国の高度な計算処理能力を抑制するため、NVIDIAの「A100」GPU相当以下の性能の半導体しか中国に輸出しない方針を打ち出している。実際には、さまざまな迂回(うかい)ルートを通じてこれらの半導体が中国に流入しているものの、米国政府が輸出を許可している「H20」GPUは、中国側の分析によれば、中国国産チップと比較して大きな優位性を持つものではない。
中国の立場からすれば、米国がいつどのような製品の輸出を禁止するか予測できないという不安定な状況であり、高性能チップの開発が喫緊の課題となっている。この状況は、過去の中国のインターネットにおいて、自主的な管理を可能とするために、自国企業による模倣的なインターネットサービスを構築した状況と類似している。低性能で非効率なチップで長期にわたってAI処理を行う場合、計算能力に対する電力需要は大幅に増加する。したがって、電力消費効率の高い中国国産チップの開発と量産が同国にとって重要な課題となる。
中国は、AI技術の発展を国家戦略の重要な柱と位置付け、2017年に「新世代人工知能発展計画」を発表した。この計画に基づき、ファーウェイの「昇騰」(Ascend)、アリババの「含光」(Hanguang)、バイドゥの「崑崙」(Kunlun)、テンセントの「紫霄」(Zixiao)など、テクノロジー大手が積極的に開発を推進している。さらに、AIチップを専門とする企業も開発に注力している。これらの企業、あるいは新興企業が、米国のハイエンド製品に匹敵する性能の製品を開発できるかどうかが、中国の長期的なAI産業の成長を左右する鍵となる。