マイクロソフト、量子コンピューティングへの取り組み状況を報告
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量子コンピューティングは、量子力学的手法で従来のコンピューター(古典コンピューター)では処理できなかった問題を解決できると期待を集める。MicrosoftでTechnical Program Manager Lead for Optimization, Azure Quantumを務めるAnita Ramanan氏に社会への実装時期を尋ねると、「われわれにはAzure Quantumの経験がある。量子コンピューティングを学ぶ学生に教材を提供し、Azure Quantumで応用できるように取り組んできた。世界中の研究機関と連携し、量子アルゴリズムの開発と最適化から量子ハードウェアへの展開も目指している」とし、「数年後」と答えた。
Microsoftの量子コンピューティングに対する取り組みは、同社研究機関のMicrosoft Researchの活動を含めると膨大だが、国内の商業利用に限定すれば、ここ数年になる。量子コンピューティングは、古典コンピューターよりも演算処理が高く、既存の課題を解決できる可能性が注目を集めてきた。現在は多種多様なアプローチがありつつも、Ramanan氏は、「化学プロセスの高精度なモデリングなど、高精度のスケーリングや大規模な問題を解決するには量子コンピューティングが必要だ。われわれは古典的なシステムで簡単にシミュレーションできる範囲を超えた量子計算を実現するため、量子的な優位性を追求する必要がある。研究では、10万キュービトが必要ながらも近いうちに実現しそうだ」(と現状を説明した。
Microsoftは、量子コンピューティングに対する取り組みを3段階に分けており、1段目は「量子コンピューティングへの取り組み開始」、2段目は「規模拡大」、3段目は「産業規模ソリューションの展開」である。
Ramanan氏は、「(第1段階で)パートナーや開発者のエコシステムと、将来の量子スケールマシンの開発に重点を置いている。第2段階では、われわれが新しい種類の量子ビット、トポロジカルビットを作成するための基礎物理学を実証した。さらに、最適化パスを拡張し、将来の量子加速ワークロードを対象とするソリューションを追加している。第3段階では、Microsoft Azureからスケールアップした量子マシンを提供し、化学、科学分野の複雑な計算問題解決を目指す」とロードマップを解説した。
既にAzure Quantumの事例はあり、2019年にはケース・ウェスタン・リザーブ大学がMRI(磁気共鳴画像)マシンの高速化と50%の高度化を実現。2021年には、自社ストレージ環境に「QIO(Quantum-Inspired Optimization:量子に触発された最適化)で最適化した。「QIOメソッドを適用することで、パフォーマンスに悪影響を及ぼすホットクラスター数の削減と地域間の負荷を8%改善した」とRamanan氏。
NASA-JPL(米ジェット推進研究所)とは、アンテナへのアクセス作成を制御するため要した2時間を16分に短縮し、実行時間も2分に短縮している。国内では、量子技術を用いた数理最適化のアルゴリズム開発などを行うJij(ジェイアイジェイ)が、MicrosoftとAzure Quantum Network Solution Partnerを提携し、自社の数理最適化用クラウド「JijZept」でMicrosoft QIOをサポートした。CEO(最高経営責任者)の山城悠氏は、「Microsoft QIOの実装は多岐にわたるが、(JijZeptは)一行で切り替えられる」と説明する。
Azure Quantumは、利用制限を設けずに研究者や開発者、ソリューションパートナーなど自由に登録できる。日本マイクロソフト コーポレートソリューション統括本部 クラウド事業開発本部 ビジネスデベロップメントマネージャーの金光大樹氏は、「特定のハードウェアに500ドル相当のMicrosoft Azureクレジットを付与し、今後はさらにハードウェアの選択肢を拡大する予定だ」とした。
申請したプロジェクトがAzure Quantumチームの審査を通過すると、1万ドルのクレジットを得る「Azure Quantum Credits」も用意。スタートアップ企業には、量子コンピューティングを実装するためのMicrosoft Azureリソースを幅広く無償で利用できる、「Microsoft for Startups Founders Hub」へも参加できる。自社エンジニアが量子コンピューティングを学ぶ場合は、Microsoft Learnによるドキュメントを用いた自己学習や、12カ月200ドル相当のクレジットを得られる「Azure Free Account」から始めるのが良いとされる。