2025年に4000量子ビット超を目指す–日本IBMが示す量子プロセッサーの工程表と意義
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日本IBMは6月29日、同社が開発を進める量子コンピューティングのロードマップを報道向けに説明した。2025年に4000量子ビット(qubit)超を持つ量子プロセッサーの実現を目指している。
量子プログラム プログラム・ディレクターの川瀬桂氏は、同社は公表したロードマップに従って着実に成果を積み重ね、重要な地点を幾つも達成してきたとし、改めてこれまでの開発成果の意義を強調した。
まず、IBMは2019年に27量子ビットの「Falcon」を開発した。この時点では量子ビット数も小さく、初期の試作的なものと受け止められた印象だが、同氏はFalconの意義を「量産可能なチップの実現に成功」したことだとした。なお、現在稼働している量子コンピューターシステム「IBM Q」のプロセッサーはFalconベースのもので、5世代目に当たる「Falcon R5」を搭載して安定動作しているという。
続いて、2020年には65量子ビットの「Hummingbird」が開発された。Hummingbirdでは、8つの量子ビットからの読み出し信号を1つに結合することで、読み出しに必要な配線やコンポーネントの総量を減らしスケーリング能力を向上させた。
2021年には、127量子ビットを持つ「Eagle」が発表された。Eagleは量子ビット数の増加に加えて、「3次元実装を導入することで安定してスケーリングできることを実証した」(川瀬氏)。同氏はまた、「これまでの取り組みは全て、単に量子ビットが増えているというだけでなく、将来の開発にとって重要な意味を持って進めてきている」と語った。
2022年内には433量子ビットの「Osprey」が公開予定で、「ここでも新しいコンポーネントに対するチャレンジをやっている」という。これまで同社が開発してきた量子プロセッサーでは信号伝達に同軸ケーブルを使用しており、幾つもの同軸ケーブルを這わせてコネクターでトルク管理しながらネジ止めするなどの大変な作業があったという。
これもスケーラビリティーの阻害要因になっており、Ospreyでは同軸ケーブルに換えて複数の信号線を束ねたフラットケーブルを採用する予定である。常温の環境では一般に利用されているが、絶対零度に近い温度で冷却される超伝導型量子コンピューターでも使えるフラットケーブルを開発するのが、Ospreyの開発目標の一つとなっている。
同時に、ソフトウェア面では「動的回路」の導入が予定されている。これは「回路の実行途中に量子の状態を中間測定できる」というもの。量子の状態を途中で測定することで、状態に応じた回路の変更が可能になり、「条件分岐のような処理が実現できる」ようになるという。
2023年には、1000量子ビットを超える「Condor」に加え、新たに「Heron」の投入も追加されている。Condorでは「同軸ケーブル以外の高周波部品の高密度化」を狙っている。並行して進められるHeronでは、モジュール化の概念が導入され、複数チップを組み合わせて1つの量子コンピューターを実現する計画だ。また、これまでの開発の流れから大きく異なる点として、従来使ってきたものとは異なる量子ゲートを採用する。
Condorまでの量子プロセッサーでは、「固定周波数の量子ゲートの間をパッシブエレメントでつなぐクロスレゾナントという方法で量子もつれ(Quantum Entangle)を実現してきた。量子ビットそのものの構造は変えないが、量子ビット間をつなぐところをパッシブエレメントからチューナブルカプラー(Tunable Coupler)に変更することで、より高精度で量子ビットを演算できるようにした」という。
モジュール化に関しては、「1つの冷凍機の中に複数のHeronのチップを入れて、その間をバス構造にすることで、それぞれのチップから信号を引き出すのではなく、まとめて選択的に信号をやりとりできるようになる」
2024年には、「Flamingo」「Crossbill」の2系統の開発が予定される。CrossbillはHeronと同様のモジュール化に取り組む。「モジュール化されたチップを並べ、その間を非常に短い配線で
つなぎ合わせることで、3つのチップを合わせて408量子ビットの量子コンピューターにする」というもの。チップ内の量子ビット間と同様に、異なるチップ間でも量子状態を保ったまま通信できるようにするのを目標に掲げている。単一チップでは困難な規模のシステムを複数チップの組み合わせで構築できるようになる。
Flamingoでは、Crossbillと同様に3つのチップを使い、「その間を(1m程度の)比較的長いワイヤー(電線)でつなぐ。こちらも量子状態のままチップ間で通信させることを目標にしている」という。ある程度離れた場所にある複数チップをまとめ、「全体として1つの量子コンピューターとして動かす」ことを狙っている。Crossbillとの違いとして、「距離がある分、若干の性能低下が起こるだろう」と予測している。