NECが創り出した新規事業–代表取締役CFOの藤川氏に成果を聞く
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「失われた30年」。日本経済低迷の大きな原因は、IT活用力のなさにあると言われている。多重下請構造のシステムインテグレーション(SI)事業に依存する日本のIT企業の責任は重い。その代表格でもあるNECは、2000年度に5兆4000億円あった売り上げをここ数年間、3兆円前後で推移し続けている。
ただし、営業利益は回復基調にあり、最盛期の2000年度並みの1800億円近くになり、2025年度の3000億円の調整後営業利益を目指すまでになる。既存事業を守りながら、新規事業を立ち上げる両利き経営が実り始めているのだろう。代表取締役 執行役員常務 兼 CFO(最高財務責任者)の藤川修氏に新規事業の取り組みを聞いた。
2014年に新規事業の創出を携わり、2021年4月にCFO、2022年6月に代表取締役に就いた藤川氏は「芽が幾つか出てきて、育ち始めている」と、新規事業の進行状況を語る。創薬や農業、健康など新しいビジネスに加えて、オープンイノベーションによる事業化を推進するインキュベーション企業「NEC X」を設立したり、事業の1部門を切り離し独立させるカーブアウトを実行したりしてきた。
藤川氏は「花が咲くのはこれからになる」と、新規事業が次なる成長の柱に育つかの時期に来ているという。最も先行するのは創薬事業だろう。2019年6月に会社の定款を変更し、人工知能(AI)を活用したがん治療の創薬事業への本格参入を表明。最近も製薬会社とのB型肝炎用治療ワクチンの共同研究など新しいことにチャレジし続けている。
藤川氏は「公式組織からも評価された」といい、ワクチン開発を行う製薬会社や研究機関に資金を拠出する国際基金「感染症流行対策イノベーション連合」(CEPI)からファンドを得たと説明する。藤川氏は「創薬事業は次の中期経営計画の柱になる有力候補だ」という。
農業分野では、カゴメとの協業が実り始める。2014年にオランダ・アムステルダムのスタートアップ企業を訪問した藤川氏は、畑に設置したセンサーから温湿度や風向・風速などのデータを収集・分析し、農薬や水などの使用を最適化して収穫量を最大化する試みを「面白い」と注目した。
当初、NECのどの技術を生かせるか見えなかったが、2回目の訪問後、天気予報の技術を応用できることが分かってきた。水不足や土壌汚染、食の安全などへの効果を期待できるし、農作物の作付面積は広大で、対象になる農作物が幾つもあり、展開次第で大きな事業価値になる。そんな判断もあったのだろう。カゴメと戦略パートナーシップを組み、トマト生産に適用する実験を始め、2022年には加工用トマト栽培技術の共同開発へと領域を拡大させている。