第10回:大規模開発向けにスケールアップする

今回は「第10回:大規模開発向けにスケールアップする」についてご紹介します。

関連ワード (不確実性の時代に、アジャイル開発で向き合っていこう、開発等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 現代社会は多くのものがソフトウェアで成り立っており、絶えず変化するニーズに応じられる柔軟でスピーディーな開発が求められています。その一方、何が正解(ゴール)なのかが分からない、という不確実性の時代でもあります。不確実性に対処するには「アジャイル開発」が最も有望ですが、その成功裏の実践には、従来の常識の解体と再構築が必要です。エンタープライズにおけるアジャイル開発の実践が待ったなしの状況の中、理論、課題、近年の動向も踏まえ、実例を交えながら幅広く解説します。

 これまで9回にわたり「方法論」「マインドセット」「技術」などさまざまな角度からアジャイル開発を解説してきましたが、今回は最後に残った重要なテーマである「スケールアップ」について解説します。スプリント(反復)ごとに作成した動くソフトウェアをデモンストレーションし、ユーザーのフィードバックを得て軌道修正を図っていくアジャイル開発は、不確実性への柔軟な対処が可能という意味で優れた手法です。その一方で、もともとは小規模開発向けに考案された手法であるため、大規模開発向けにどのようにスケールアップするかが課題でした。そこで、大規模開発にも用いることができるよう、さまざまな形での「スクラムの拡張」が試みられてきました。

 一般的に、開発規模が大きくなるとどうなるのでしょうか。5~9人が適正人数とされる1つのスクラムチームでは対処しきれない開発量をこなすためには、チームを増やして並行開発を行うほかはありません。すると、チームごとの計画や開発担当領域、作成物の整合性の確認や調整といった作業が必要となってきます。こうした一般的に「スクラムオブスクラム」と呼ばれるスクラムチーム間の調整ミーティング、あるいは各チームの作成物を結合しての検証作業といった、アジリティーとはトレードオフの関係にある「統制」の要素を、アジリティーを損なわないよう十分に留意しながら適度なレベルで採り入れざるを得なくなってきます。

 開発活動の大規模化に伴う複雑さにどう対処していくかという観点で、さまざまな「スクラムの拡張」が考案されましたが、その中でも人気があり、誕生から10年を経てなお改訂を受け進化し続ける方法論として「ディシプリンド・アジャイル(Disciplined Agile:DA)」と「Scaled Agile Framework(SAFe)」が挙げられます。これらはいずれもアジャイル宣言から10年の歳月を経た2010年代初めに第2世代の方法論としこの世に誕生し、標準的なスクラムのみならず、リーン思考、eXtreme Programming(XP)、カンバン、DevOpsなどのプラクティスをベースに構成されています。

 興味深いことに、DA、SAFeともに自らを「方法論」ではなく「ツール・キット」、あるいは「フレームワーク」と呼称しています。後述するように両者のニュアンスは多少異なりますが、共通点は、ルールの厳格な順守を期待するものではなく、自らを、あくまで効果的な実践を手助けするためにガイダンスを提供するものである、と位置付けている点です。大規模開発につきものの複雑な状況に取り組む開発チームをサポートするために、両者は数百ページにもおよぶ包括的かつ構造化されたガイドを提供しています。

 また近年の改定により、DA、SAFeいずれもがソフトウェア開発活動のアジリティー向上にとどまらず、ビジネスアジリティー向上にまで踏み込んだ内容となっており、バリューストリーム、すなわち顧客から何らかの要求が生じてから実際に顧客に製品やサービスを届け価値を実現するまでのリードタイムの短縮や質的な向上に重きを置く方向にシフトしています。

 DAは、Scott Amber氏とMark Lines氏によって2011年に発表されました。反復型開発プロセス「ラショナル統一プロセス(Rational Unified Process:RUP)」を考案したRational Softwareによるそれまでの蓄積と、同社を2003年に買収したIBMにおける主にAmbler氏による調査・研究の成果がそのベースとなっています。優れた手法でありながらその複雑さ故に期待されたほど浸透しなかったRUPの教訓を踏まえ、総じてシンプルな構造を保ちながら、活動の規模拡大や複雑性をもたらすさまざまな要素(スケーリングファクター)に対する具体的な対処方法をまとめたプラクティス集となっており、現場の開発チームにとって理解、実践しやすいことが長所と言えます。

 DAの知的資産はDisciplined Agile Consortiumに移管されたのち、2019年8月にPMIに買収されました。PMIは2017年に改定したPMBOK第6版でアジャイルに関する記述を大幅に強化し、その副読本として「アジャイル実務ガイド」を刊行するなど、アジャイル開発手法を標準の一つに据える方針を明確に示しました。さらに2021年の第7版の改定では、プロジェクトの成果を効果的に生み出す上で重要な活動領域(8つのパフォーマンス領域)と、個々のプロジェクトの状況を踏まえた上での行動指針(12の原理・原則)を示すことで、開発アプローチとしてのアジャイルにとどまらず、多様化する文脈やニーズを満たすことができるように再構成されました。

 DAの基本構造については、PMIのウェブサイトから参照可能であり、詳細な各論へのリンクも含め全ての情報が公開されています。詳細な仕組みの理解や実際の開発活動への適用に当たっては、学習および実際の経験から適切な方向に導いてくれる、認定を受けたインストラクターから学ぶのが理想です。しかし、その全体構造を概観すると、4つの階層の活動定義と、それぞれの活動の構成要素群、あるいは活動する組織が一般的に保有する能力群を表す「プロセス・ブレード」が定義された「DAツール・キット」(図1)として定義されています。

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