クラウドARの活用でアパレルの課題解決を目指すグーグルとKDDI
今回は「クラウドARの活用でアパレルの課題解決を目指すグーグルとKDDI」についてご紹介します。
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グーグル・クラウド・ジャパンとKDDIは5月18日、クラウドサービスと拡張現実(AR)などの技術を利用して、アパレル業界の課題解決を目指す取り組みを発表した。多業種への展開も視野に入れている。
同日両社が披露したのは、「XRマネキン」と呼ぶ仕組みになる。衣服の3次元(3D)コンピューターグラフィックス(CG)とバーチャルモデルのCGを組み合わせ、店舗に設置したデジタルサイネージや顧客のスマートフォンにARで表示する。現物がその場になくても、顧客はあたかも目の前に商品があるかのように体験できるものになる。
この仕組みでは、デバイスに表示する3DCGの描画処理をGoogle CloudのデータセンターのGPU側で行いストリーミング配信する「Immersive Stream for XR」を利用する。デバイスとデータセンター間の通信は5Gなどの高速回線を用いる。Immersive Stream for XRは、5月にオンラインで開催された開発者向けカンファレンス「Google I/O」でパブリックプレビューが開始されたもので、今回はGoogle Cloudの東京リージョンで実行しているという。
KDDIは、5月13日に2024年度を最終年度とする中期経営計画を発表し、その中で法人顧客向けのデジタルトランスフォーメーション(DX)事業を重点施策に位置付ける。今回の取り組みはその一環で、記者会見したサービス統括本部 5G・xRサービス企画開発部長の上月勝博氏は、「1年半前に当社に入社したアパレル業界出身の社員の『テクノロジーで業界の課題を解決したい』という思いがきっかけだった。新しいことにチャレンジするというGoogleの文化に共感し、この取り組みを始めた」と述べた。
上月氏によると、アパレル産業は地球温暖化につながるとされる温室効果ガス排出量の10%を占めるとされる。さらに、経済産業省の統計では市場規模が30年間で約3分の2に縮小した一方、商品供給量は2倍に増加し、年間に15億着もの商品が廃棄される「在庫ロス」の問題が深刻という。また、生産拠点の多くが海外にあり、コロナ禍でサプライチェーン(供給網)が影響を受けていることから、かつての大量生産・大量消費のビジネスモデルから早期に脱却する必要性も高まっている。
こうした中でアパレル商品の開発はデジタル化が進み、服飾などのデザインをCAD(Computer Aided Design)ソフトウェアを行う「アパレルCAD」が普及しつつあるとのこと。今回の取り組みは、アパレルCADで使う商品データの活用に着目したことがポイントになる。顧客に新たなデジタル体験の提供するだけでなく、現物のマネキンを多く設置できず在庫量も少ない小規模店舗では、商品訴求力の向上により販売機会の拡大につながるという。また、商品サンプルの大量に生産する必要がなくなり、「在庫ロス」の解消にもつながる。収益向上とコスト削減、環境負荷の低減といった効果が期待される。
上月氏によれば、既に10社ほどが関心を示しているといい、2022年中にパートナー企業と実証実験を行い実店舗への導入を目指すという。「業界が抱えるさまざまな課題の解決から、デジタルを生かした顧客との新しい関係づくり、多様な販売方法の実現などさまざまな可能性を秘めている」と述べる。
グーグル・クラウド・ジャパン カスタマーエンジニアリング 技術本部長の佐藤聖規氏は、従来型のARなどには、専用のアプリケーションやデバイスが必要になるケースが多く、ユーザーが手軽に利用しづらいこと、標準的な3Dの仕様がないこと、モバイル端末は高精細な3DCGの描画処理能力が低いこと、開発者が多種多様なユーザー環境に合わせてコンテンツを開発、管理しなければならないことといった課題があると指摘する。
こうした課題を解決すべくImmersive Stream for XRをリリースしたといい、「クラウドGPUでの処理と5Gの超低遅延の特徴を組み合わせれば、100万台規模へのストリーミング配信でもユーザーがストレスを感じることなくARなどのコンテンツを体験でき、端末やOSの制約も解消される」(佐藤氏)としている。
Immersive Stream for XRは、KDDIの他に、米Fordが新型自動車のバーチャルショールーム、住宅設備の米Lowe’sがキッチンのバーチャル展示、シンガポール政府観光局が3Dバーチャル旅行コンテンツの提供で既に導入している。佐藤氏は、ARの没入感を生かして設備メンテナンスや製造オペレーション、従業員トレーニングなどにも応用可能とした。
グーグル・クラウド・ジャパンとKDDIは、今回のアパレル業界向けの取り組みを通じて今後は他の業種に展開していきたいとしている。