実践のプロが解説する、アジャイル型アプローチの「7要素」
今回は「実践のプロが解説する、アジャイル型アプローチの「7要素」」についてご紹介します。
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
現代のビジネス環境の特徴を一言で表すと「変化の激しさ」に尽きるだろう。企業・組織にデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる理由は、まさにこの点である。経営者には、顧客のニーズやマーケットの変化に対して、針路を見失わない慎重さと同時に、状況に応じて柔軟に針路の変更を決断できる大胆さも求められる。そうした連続的な進化、あるいは継続的な改善を実現する手法の一つが「アジャイル型アプローチ」だ。
例えば、顧客からのフィードバックに素早く反応してその日のうちに改善すれば、明日の売上増といった“手触り感のある”成果に結びつきやすい。企画からリリースまでに数年を要するような悠長な取り組みを続けていては、競合とビジネスで戦う前から負けが見えている。
スピードが競争優位性の獲得に直結する現代において、最高経営責任者(CEO)や最高情報責任者(CIO)、最高デジタル責任者(CDO)といった経営幹部のほか、情報システム部門の現場責任者には何が求められるのか。本論考では、その問いに答えるアジャイル型アプローチの最新の姿を解説する。
筆者は、プロジェクト管理に関する複数の国際上級資格を保有しており、数々のアジャイル開発プロジェクトに参画してきた。そうした中で強く実感した点は、経営層には経営層の悩みがあり、現場層には現場独自の課題があるということだ。もっとも、企業や組織内で両者の分断は避けるべき事態であるため、両者が一体となって顧客や市場の変化に対応しなくてはならない。
では、そうした対応力を高めるにはどのような考え方に基づくアプローチが必要なのか。例えば、筆者の所属するRidgelinezは、DXコンサルティング事業を展開しており、企業がDXを実現する上で必要なアジャイル型アプローチを7つのエッセンスに整理・集約している。まずは、その7項目を説明しよう。
アジャイル型アプローチの最初のテーマは、「経営戦略と整合させた組織のアジリティー(俊敏性)」だ。アジリティー向上のための施策が経営戦略とかみ合っていれば、その後の展開スピードは速くなり、得られる成果は大きくなる。
これは、経営戦略が事業部門や情報システム部門などそれぞれの現場に浸透しているかどうかの確認でもある。筆者はコンサルタントとして、経営戦略がその企業のビジネス内容や組織体制の実態と適合しているかを常に把握するよう取り組んでいる。
アジャイルでの開発プロジェクトを初めて体験したクライアント側メンバーは、決まって「これまでの方法論とは全く違っていて驚いた」と口をそろえる。アジャイル型アプローチの実践では、人や組織文化の変革が不可欠だ。アジャイルは、全社的な組織変革によって俊敏性や柔軟性を強化する肉体改造のようなものであり、一朝一夕では完成しない。「発想の転換ができる組織」を目指し、新しい組織文化を醸成・浸透する取り組みを行う。
アジリティー実現のためには、社内のプロセス変革も欠かせない。例えば、事業部門からの要請に情報システム部門が素早く対応しても、社内決裁・承認に時間がかかっては元も子もない。開発の迅速化と同時に、組織内の各種プロセスの効率化も必要で、そのプロセス設計において専門家のアドバイスが必要である。
顧客のニーズやマーケットの変化に素早く対応するためには、システム構造の変革も必要だ。一枚岩のような重厚で堅固な構造では影響範囲が大きくなるだけでなく、素早いリリースも不可能だ。今後起こり得る変化を前提とし、それに柔軟に対応できるよう、拡張性、保守性を重視した疎結合な構造となるアーキテクチャーおよびロードマップの策定が重要である。
描かれたアーキテクチャーは、実装しなければ絵に描いた餅に終わる。戦略策定からシステム開発までが一気通貫であることは、組織全体のアジリティーの向上に大きく貢献する。多くの企業が各分野の専門家(コンサルタントなど)の助言を取り入れているが、それが真にエンドツーエンドの内容であるかどうかを見極めなければならない。DevOpsはITの転換だけでなく、経営層や事業部門と高度に連携するための考え方でもある。
昨今の日本企業で内製化を志向するケースが増えている。筆者の経験でも、「ITベンダーへの依存から脱却したい」という依頼は多い。コンサルタントとエンジニアが共同参画してモノづくりを進めつつ、同時にナレッジをクライアント側の従業員へ引き継いでいく。このような段階的な内製化が現在のトレンドだ。
日系・外資を問わず、多くの先進企業で「モノ中心の経営姿勢」への反省から、「ヒト起点のデザイン」への転換が生じている。なぜなら、今後の事業成長はユーザーの価値観を理解し、自然で快適な体験を提供できるかどうかにかかっているからだ。ユーザーインタフェースや顧客体験(UI/UX)に関わるデザイナー人材をどれだけ有しているかも、今後のDXパートナー選びにおける判断基準の1つとなる。
アジャイル型アプローチを小規模なチームで実践しながら成功体験をつかみ、自社に最適なベストプラクティスの構築を経て、全社に展開していくことで、組織のアジリティーが高まっていく。5~10人ほどのチーム同士が有機的に連携していき、計画的に拡大するスケーリングこそ、アジャイル型アプローチで最終的に目指すものだ。
これらの7要素を整理し、関連づけて並べると下の図のようになる。読者の中には「スケーリング」が中央に配置されていることに気づく方もいるだろう。アジャイル型アプローチへの転換とは、例えるなら、山脈を縦走(トラバース)していくような企業活動に他ならない。その最終ステップが「スケーリング」である。つまり、全社展開の最終ステップである「スケーリング」を中央に据え、そこへ至るために必要となる社内リソースや人材を、どの要素に、どの程度を振り分けながら連携的に取り組むかを示している。そのプランを入念に検討し、素早く実行することが事業成長の成否を分けるのである。