明治4年創業の梅専門店が海外展開に活路–老舗企業の快進撃を支えるIT基盤とは

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 ちん里う本店は1871年(明治4年)創業の梅専門店。小田原城の最後の料理長が同市内に開業した料亭が起源となっている老舗企業で、梅や赤じそ、桜の漬物や菓子などを製造・販売している。現在は5代目の小峯孝子氏と夫で常務取締役のNicolas Soergel氏で家族経営を続けている。

 これまで多数の百貨店と取引を始めることで販路を拡大してきたが、近年は消費行動の変容などを受けて歳暮や中元といった贈答品の需要が減り、「10年後の事業存続」(Soergel氏)も怪しい状況だった。そうした危機感から、生き残りをかけて新規事業の立ち上げを決断し、2012年に定番の梅を使用した新商品を開発して国際事業を開始した。

 現在は大きく3つの事業を展開している。梅専門店の「ちん里う本店」と伝統工芸品を販売する「NIHONICHIBAN」をメイン事業として、トリュフを使った製品を扱う「TRUFFLEHUNTER」も含め、日本国内の店舗と世界100カ国以上の消費者や卸売業者、レストランに商品を提供している。

 直近は欧州に子会社を設立し、ドイツ、北欧、南アフリカ、オーストラリア、米国に代理店を設置している。英国とドバイの代理店とも商談中とのこと。従業員の国際化も進んでおり、外国人が約2割を占めている。「BtoBの輸出売上は4年連続で倍増しており、4年で8倍に成長した。いまでは海外売上は事業全体の60%以上を占めている」(Soergel氏)

 同氏によると、ちん里う本店は情報技術(IT)をビジネスイネーブラー(事業の原動力)として考えており、「売り上げの2.5%をIT投資に費やしている」という。

 最初はパッケージの販売管理ソフトを使っていたが、海外の住所を正しく入力できない、管理できる品目数が足りない、在庫管理の機能が弱い、といった問題があった。また、国際取引で必要な各国の通貨計算についても、当初は電卓をたたいてはじき出していたという。

 そうした中、2012年にITシステムの導入方針を策定。(1)リアルタイムにビジネスの情報を提供できること、(2)従業員がいつでもどこでも、どんなデバイスでも働けること、(3)多言語に対応し、世界各国の通貨が使えること、(4)ハードウェアやソフトウェアではなく、サービスとしての導入を優先する、(5)APIでシステム間の連携が容易であること――の5つを掲げた。

 「2019年に至るまで、これらの導入方針を満たす中小企業向けのシステムは日本に全くなかった」とSoergel氏は振り返る。

 そこで同社は、日本オラクルが提供するクラウド型ERP「Oracle NetSuite」を導入し、自社のIT環境を刷新。商品情報や見積書、発注書、請求書など社内で扱う文書の多言語対応のほか、煩雑な通貨計算の自動化、8200種類以上に及ぶ商品情報の一元化など、事業の急成長を支えている。

 「NetSuiteは、画面に表示される言語や時刻、日付、数字などをユーザーレベルで細かく設定できる。ユーザーは自分の好きな言語で仕事ができる」(Soergel氏)

 NetSuiteは、統合基幹業務システム(ERP)、財務会計、顧客関係管理(CRM)、電子商取引(EC)といった機能を単一のプラットフォームで提供する業務アプリケーション群。世界で3万4000社が利用しているという。

 Soergel氏は「NetSuiteは商品情報のマスターデータとしての役割も担っている。NetSuiteで商品情報を更新するだけで、連携先のシステムにも自動で反映される」と話す。

 また、在庫数に応じて自動で発注量を計算する仕組みを取り入れ、業務の自動化も進めている。2023年にはあらかじめ設定した条件に基づいて営業日ごとの決まった時間に発注書を自動で作成・送信できるようにする計画だという。

 「NetSuiteを導入し、業務のデジタル化や自動化、効率化を進めた結果、2012年と比べて従業員の生産性は50%向上した」(Soergel氏)

 日本には、創業100年以上の老舗企業が3万以上存在する。そういった企業が後継者難や資金難を理由に休廃業してしまうのは「もったいない」といい、支援する仕組みとして“老舗ファンド”の設立を構想している。NetSuiteはその基盤システムとしても期待されている。

 Soergel氏は最後に、「NetSuiteは旅のようなもの(NetSuite is a Journey)」と表現し、「(パッケージシステムのように)導入して終わりではなく、ビジネスとともに進化するシステムだ」と語った。

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