製造業はプロセスからのデジタル化が重要に–シーメンスのDX戦略
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産業制御システムメーカーのシーメンスは6月6日、記者向け説明会を開いて同社のDX戦略を説明した。日本の製造業はプロセスレベルでのデジタル化が必要であり、同社は産業向けデジタル基盤「Siemens Xcelerator」などを通じてこれを支援するとしたほか、都内に開設したデジタルツインのショールームも披露した。
説明会では、まず代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の堀田邦彦氏が、日本の製造業界の現状に触れ、垂直統合モデルからIT業界と同様の水平分業モデルへの大きな産業構造の変化が起きると指摘した。
堀田氏は、1984年に旧日本鋼管(現JFE)に入社し、生産ラインへのロボット導入をはじめとする生産の自動化に長年取り組んできたという。その後、設計ソフトウェアのDassault Systemesやメカトロニクスシミュレーションのエルエムエスジャパンで要職を歴任し、2013年にシーメンスに入社。2020年から現職を務める。
40年近いキャリアで幾多の変革を経験したといい、堀田氏は「その1つがコンピューター業界になる。かつては米IBMなどが大型計算機を開発・生産する垂直統合モデルだったが、OSをMicrosoft、CPUをIntel、メモリーを現在のTSMCが手がけるような水平分業モデルに変化した。製造業でもこのような変化が間もなく起きる」と自身の経験に照らして、製造業界の将来像を示した。
そうした変化に直面しているのが自動車製造になるという。自動車製造では、化石燃料を使う内燃機関(エンジン)から電気自動車へのシフトが進んでおり、堀田氏は「ものづくり」のアプローチも大きく変わると述べる。「従来なら音や熱などの厳しい要件に対応した内燃機関とスタイリッシュなボディーデザインの新型車を年間1000万台という単位で製造し世界に出荷していた。しかし、これからはTeslaのElon Musk氏が『The factory is the product』(工場そのものが製品である)と述べたように、製造そのものが変わる。既に日本のものづくりは遅れている」(堀田氏)という。
ただ、製造業界でのデジタル化の取り組みは古くから行われていたとする。1980年代にはメーカーが自前でコンピューター設計支援(CAD)システムを開発、運用していた。これは自社のプロセスに合わせやすくメリットがあったという。しかし、2000年代前後の日米貿易摩擦を背景に、自社のCADからグローバル標準のCADシステムに切り替る動きが起きた。この際に日系メーカーは、グローバル標準のCADシステムを以前からのプロセスに合わせるべくカスタマイズを駆使するようになったとする。その影響は現在、経済産業省が提起した「2025年の崖問題」(レガシーな基幹業務システムを最新化しなければ年間12兆円規模の経済損失が出るという指摘)にもつながり、堀田氏は日本の製造業界の競争力を失わせると危機感を示す。
堀田氏は、「日本の製造プロセスは全て紙が源流にある。CADや3次元のコンピューターグラフィックス(CG)なども登場したが、それらはたまたまであり、紙ベースのプロセスを基にしたカスタマイズから脱却しなければならない。デジタルの時代は設計と製造を一体にしないといけない。シーメンスは製造のデジタル化を支援している」と話した。
具体的な取り組みの一例が、電気自動車やハイブリッド自動車で必須のバッテリーになるという。バッテリーは、高度な生産技術が要求され、長寿命化や大容量化、さらには環境負荷の抑制に向けた技術開発の進化も極めて早いものの、その生産では歩留まり率の高さが大きな課題だという。堀田氏は、製鉄時代に生産技術の高度化で歩留まり率の低下に取り組んできた経験から、デジタル技術などの活用でバッテリー製品の歩留まり率の改善を図ることが急務だとした。
同社デジタルインダストリーズ デジタルエンタープライズ&ビジネスディベロップメント部長の鴫原琢氏は、「世界的なサステナビリティー(持続可能性)への要請の観点からもバッテリー需要が激増しており、バッテリーの生産では、複雑な技術課題や各種規制などにも対応していかなければならないが、例えば、生産工程での化学反応によって生じた不良品は廃棄せざるを得ないなどの問題がある」と説明する。
このためシーメンスは、世界のバッテリーメーカーと生産性を向上させるためのデジタル技術の活用についてさまざまな研究や実証などに取り組んでいるという。例えば、従来に実物を用いる必要があった各種の検証がCGシミュレーションを活用した仮想環境で行えるようになり、そこでの成果を実環境に反映していくデジタルツインを推進している。
同社が開設したショールームでは、多数の大型ディスプレイと6台の産業用PC、製造装置などを制御するPLC(プログラマブルロジックコンローラー)やロボットアームなどが用意されている。一例としてバッテリー生産ラインの設計を検討するために仮想環境で生産装置の設定などを変更した場合における生産プロセスの変化をシミュレーションしたり、実際のロボットアームと仮想環境に再現した生産ラインやロボットアームをリアルタイムに連動させてその動作の様子を確認したりできるデモを行っている。通常こうしたデモは事前に用意されたシナリオの映像を紹介するなどの場合が多いが、同社のショールームでは、産業用PCにPLCのソフトウェアをインストールしており、ソフトウェアの設定に応じたシミュレーションを実行できるようにしているという。
鴫原氏は、「実環境での検証には多大な準備や負担を伴うため、バーチャル技術によって、バッテリーの動作と電力消費の変化を検証するようなこともできる。また、ERPやMES(製造実行システム)などとのシステム連携も重要になり、そうした環境も再現できる。製造のデジタル化は設計工程に行くほど進む『シフトレフト』にある。各種データを活用して生産性の向上を図り、そうした成果が収益化に貢献し、ひいてはサステナビリティー目標の達成にもつながる」と話した。