2023年のF1で常勝するレッドブルに聞く–レース戦略とクラウドの関係

今回は「2023年のF1で常勝するレッドブルに聞く–レース戦略とクラウドの関係」についてご紹介します。

関連ワード (クラウド等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 自動車レース「F1」に参戦しているOracle Red Bull Racingチームは、2023年シーズンにおいて圧倒的な強さを見せている。第15戦のイタリアグランプリ(GP、9月3日決勝)までの全てのレースで優勝しており、チーム所属ドライバーのMax Verstappen選手もドライバー個人として歴代最多の10連勝を達成した。“常勝軍団”となった同チームのレース戦略責任者を務めるWill Courtenay氏がイタリアGP後に日本のメディアインタビューに応じ、レース戦略とシミュレーション、クラウドの関係ついて語ってくれた。

 F1のレースは、シーズンを通じたポイントの獲得数でドライバーとチームの年間優勝を争う。原則として各GPの決勝レースの上位10位までを入賞とし、順位に応じたポイントがドライバーに付与される。そのほかにも決勝レースのスタート順位を決める予選の1位や、決勝レースでサーキット1周のタイムが最も速い「ファステストラップ」、幾つかのGPで実施されている短距離レースの「スプリント」(後述)の成績などでもポイントが付与される。シーズンでの獲得ポイントが最も多いドライバーが年間優勝者になる。

 チームの年間優勝は、シーズン中にそのチームに在籍したドライバーの獲得ポイントの合計で決定する。チームに在籍できるドライバーは原則として2人までだが、レース中の負傷といったさまざま事情でドライバーが交代するケースは多い。

 2023年シーズンのF1は、欧米や中東、アジア、オセアニアの23カ所のサーキットで開催される(うち1カ所は豪雨災害により中止)。サーキットは、常設型から市街地の公道を特別に閉鎖した仮設までさまざまだ。サーキットのコースレイアウトは、多くの複雑なコーナーで構成されたドライバーの技量が要求されるところや、直線や高速コーナーが主体でレースカーの性能差が如実に表れるところもある。さらに開催地の気候や季節にもよって環境が全く異なる。

 F1のレースカーはチームが独自に開発、製造する。かつては予算規模が大きなチームほど速いレースカーの開発に成功し、レースで勝利できる構図だった。しかし、それがレースの競争性を低下させると問題視され、さらに近年は世界的な地球環境保護への関心の高まりを背景に、成績上位のチームほど予算が厳しく制約、管理され、レースカーの各種パーツの使用なども厳しい制約がある。万一違反すれば、レースタイムの加算や順位の降格、失格、制裁金の支払いなどの厳しいペナルティーが課せられてしまう。

 F1レースは、シンプルには各GPでトップを競うが、年間優勝の観点では、複雑な条件や制約のもとで、いかにして可能な限り多くのポイントを獲得できるかが重要になる。それには、ドライバーの技量やレースカーの性能はもちろんのこと、GPごとの複雑かつ常に変化するさまざまな状況に対応しながら確実な勝利を手にできる緻密なレース戦略が鍵を握る。

 Courtenay氏は、レース戦略の立案では、「(サーキットごとに異なる)ピットインで失う時間やタイヤ交換のタイミング、車両の走行ペースといった各種条件を考慮してレースの開催前からシミュレーションを実行し、レースの開催期間中にも気象の変化などの条件を加えながらシミュレーションを続け、勝利するための戦略を組み立てている」と述べる。

 Red Bull Racingは、米Oracleと2021年からパートナーシップを締結している。レースカーの開発やレース戦略のシミュレーション、チームのマーケティング活動などに、Oracleのクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を活用しているという。レース戦略の立案では、モンテカルロ法を活用してチームで数百万ものレースシナリオのシミュレーションモデルを独自に作成。OCI上でそのシミュレーションを多数同時実行し、最もレースに勝利する可能性の高いシナリオを戦略に用いる。シミュレーションの実行回数は1シーズンで約40億回にも上るという。

 Courtenay氏は、戦略が成功したというレースの例に、第10戦のオーストリアGP(7月2日決勝)を挙げた。オーストリアには、飲料メーカー大手Red Bullグループ(F1チームとしての拠点は英国)が本拠があり、チームにとってはいわば“母国”レースになることから、確実な優勝が求められた。

 このレースでは、スタートから13周目に別のチームのレースカーにトラブルが発生し、コースでの停止を余儀なくされた。安全を確保するまで追い越しを禁止するなどの措置が取られ(バーチャルセーフティーカー:VSCの適用による一時的なレースの制御)、このタイミングで多くのドライバーがピットインを行い、新しいタイヤに交換してレース再開後の好走を狙った。

 この時点でRed Bull RacingのVerstappen選手は首位を走行していたが、あえてピットインとタイヤ交換のタイミングを遅らせる「ステイアウト」と呼ばれる方法を選択。結果として、ほかのドライバーはタイミングが重なったことで接近戦になり順位が大きく変動したが、Verstappen選手は追従を許すことなく逃げ切り、優勝を手にした。

 「VSCの発動という突発的な状況が起きたが、OCIを活用して現場でリアルタイムにシミュレーションを実行し、ステイアウトを選択した。(クラウドの)メリットによって、ベストな形でMax(Verstappen選手)の勝利を得ることができた」(Courtenay氏)

 Courtenay氏によれば、かつてチームではサーキットの現場に持ち込むコンピューターでレース戦略のシミュレーションを実行していたという。しかし、シミュレーションモデルが高度化し、実行回数が増えるほどに高性能なコンピューターが必要になり、コストも上昇してしまうことが課題だった。そこでOCIを利用するようになった。クラウドデータセンターの潤沢な計算リソースを使用でき、かつコストは利用した分だけになるので、レース戦略やそのシミュレーションにとってクラウドは不可欠な存在になっている。

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