東亞合成が試行錯誤して挑んだ工場現場のデータ活用

今回は「東亞合成が試行錯誤して挑んだ工場現場のデータ活用」についてご紹介します。

関連ワード (ビッグデータ等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 東亞合成は1944年に創業の大手総合化学メーカー。「基幹化学品」「ポリマー・オリゴマー」「接着材料」「高機能無機材料」の大きく4つの事業を展開しており、一般には瞬間接着剤「アロンアルフア」のメーカーとして知られる。国内に8拠点の工場を構え、マザープラントの名古屋工場は研究所も含め、同社最大の生産拠点となっている。

 東亞合成 技術生産本部 生産革新センターの伊藤彰啓氏によると、同社が工場DXの取り組みを始めたのは2017年になる。各工場のシステム導入や運用を一人で支えてきた社内の「スーパーエンジニア」をリーダーに、社内初の独立したデジタル部隊を設置した。

 まずはデータ活用のためのインフラ整備や基盤構築に着手した。工場内にある計測器類や無線計器、高機能センサーなどからデータを取ってこられるようにしたり、複数の乱立した既存システム群からデータを集めたりして、工場ビッグデータとして活用する仕組みを整えた。

 しかし、当時は工場現場から反発を招いてしまい、思うようにプロジェクトを推進できなかった。「基本的にはプロジェクト側の工場業務に対する理解や工場現場側のITリテラシーが不足していたのが原因だった」と伊藤氏は当時を振り返る。

 このプロジェクトは当初、工場での実務経験を持つメンバーが一人もいなかった。この点について、プロジェクトリーダーも工場の現場のニーズや課題に対応できるかどうか不安に感じていた。そこで、2019年に組織名を生産革新プロジェクトに改め、工場経験者3人を新たに迎え入れた(2020年に現在の生産革新センターに改称)。ただ、待望のメンバーであるものの、即戦力となるわけではなく、最初のころはDXに取り組む企業やITベンダーに話を聞いたり、どのようなソフトウェアやサービスがあるのかを調べたりするところからスタートだったという。

 東亞合成では、2019年に日立社会情報サービスのサポートを受けながらビジネスインテリジェンス(BI)ツール「Qlik Sense」を導入した。アプリ作成の教育を受けた担当者は、チュートリアルに沿ってアプリを作成し、業務報告でその内容を共有するなどしていたが、実用的なアプリを作成するためのアイデアやデータ分析のスキルが不足していた。加えて、工場現場では、「Excel」や「PowerPoint」を活用して担当者がデータを加工したり、資料を作成したりしていたので、データ可視化に対する関心や意欲が低かった。このような状況で、伊藤氏も最初は「無駄な投資だったのではないか」と疑問を抱いたという。

 同氏は生産革新プロジェクトの一環として、新しい製造実行システム(MES)の運用改善にも携わっていた。製造データを自動的に集計し、日次や月次の報告書を作成する目的で導入したものの、最初はうまく動かず、調整を繰り返していた。これがある程度軌道に乗ると、毎日大量のレポートが出力されるようになった。

 一方で、それに伴う課題も生じた。まず、データ量が膨大になったことだ。これまで月次で処理していたものが日次になることで、データ量は単純計算で30倍に膨れ上がることになる。また、せっかく日次で細かくデータを得られるようになったのに、それを活用できないのはもったいないと感じ、伊藤氏はQlik Senseの活用を思い浮かべる。MESのデータをQlik Senseで可視化し、分析用のアプリを作成した。

 このアプリを工場部門に公開し、全社の技術発表イベントでも披露したところ、大きな反響を呼んだ。さまざまな工場から問い合わせが来るようになり、統合基幹業務システム(ERP)のデータを活用した分析アプリなども作成した。だが、その後のアプリ開発は難航し、急速に伸びていた利用者も減少していったという。一時は足りないほどだったライセンス数も余るようになり、追加購入の話もなくなってしまった。

 伊藤氏は失敗の原因について、「そもそもアプリがユーザーのニーズに合っていなかったり、おおよその傾向が分かっているデータを可視化してもインパクトがなかったりなど、開発者の自己満足に陥っていた」と分析する。そこから同氏は、全社員にとって価値のあるアプリを作るには、どうすればいいのだろうかと頭を悩ませていた。

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