NEC社長が示した「コーポレート・トランスフォーメーションの手応え」とは
今回は「NEC社長が示した「コーポレート・トランスフォーメーションの手応え」とは」についてご紹介します。
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本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NEC 取締役 代表執行役社長 兼 CEOの森田隆之氏と、伊藤忠テクノソリューションズ 代表取締役社長の新宮達史氏の「明言」を紹介する。
NECの森田氏は、SAPジャパンが先頃開催したプライベートイベント「SAP NOW Japan 2024」の基調講演において、SAP ERPユーザーの立場で「NECのコーポレート・トランスフォーメーション」をテーマにスピーチした中で、その社内改革の進捗(しんちょく)を山登りに例えて冒頭のように述べた。以下、同氏のスピーチのエッセンスを紹介する。
NECはこれまで10数年にわたってコーポレート・トランスフォーメーションに取り組んできた。その大きな流れとポイントとなる動きを示したのが、図1だ。
ITインフラはコーポレート・トランスフォーメーションを支える存在で、2008年に基幹システムの再編によってSAP ERPを導入した。従って、このタイミングが改革の始まりとも見て取れる。森田氏はコーポレート・トランスフォーメーションについて、「事業戦略、事業ポートフォリオ、財政戦略、文化、人といった企業の全てを改革するものだ。それを支えるコーポレートインフラも、組織、制度・プロセス、IT、そしてデータという『三位一体Plus One』の改革と位置付けて再構築を進めている」と説明した。
基幹システムを再編したのは、2008年に子会社のコンプライアンス問題を発端とした会計問題が顕在化したからだ。当時、NECは多様な事業を展開しており、事業ごとに異なるプロセスとITシステムが存在していた。承認プロセスなどの内部統制も事業ごとに最適化されていた。
そこで、2010年にSAP ERPをグローバルに導入し、会計領域を中心とした基幹システム統合で一定の成果を得たが、一方で積み残した本質的な課題もあった。それは、収益認識の観点から、営業・商談領域のプロセスが未整備だったことだ。具体的には、各部門が独自のプロセスを構築し、全社として統制ができておらず、部門間の調整や管理面で膨大な手作業が発生していたのだ。また、収益認識の基準など将来の制度会計への対応にも懸念があった。森田氏は当時について、「会計システムとしては及第点でもマネジメントのシステムとしてはまだまだ未熟だった」と振り返った。
2008年に最高財務責任者(CFO)に就いた森田氏は、この問題に徹底的に向き合うため、SAPをはじめとしたグローバル企業から学んでNECのあるべき姿を追求するとともに、変革タスクフォースを立ち上げて経営陣のコミットの下、社内コンセンサスを形成していった。そして、2021年に最高経営責任者(CEO)に就いた同氏は、自らのイニシアチブによって改革を強力に押し進めることを社内外に示した。同時に、この「社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)」を起点に「お客さまのDX」、さらには「社会のDX」へと広げていく「クライアントゼロ」戦略を打ち出した。
クライアントゼロの中身は、「アジャイル組織とDX特区」「データドリブン経営と経営ファイナンス刷新(KFP)プロジェクト」「NECのワークスタイル・イノベーション」「AIトランスフォーメーション」の4つからなる。補足説明しておくと、アジャイル組織は、前述した「三位一体Plus One」で社内DXを推進すること。KFPプロジェクトは、目指す姿や実現に向けた考え方、共通認識を整理した上で長期ビジョンを描き、目に見える改善を継続的に実行すること。そして、AIトランスフォーメーションは、ありとあらゆる領域へAIを浸透させ、AIが持つパワーをフル活用することだ。こうしたクライアントゼロの中身は、すなわちコーポレート・トランスフォーメーションの全体像でもある。
森田氏は、コーポレート・トランスフォーメーションの主な取り組みの成果として、図2を示した。また、基幹システムについてもSAPとの密接なパートナーシップによってモダナイゼーションを進めていく構えだ。その上で、コーポレート・トランスフォーメーションの進捗を山登りに例えて冒頭のように発言した。
森田氏のスピーチの時間は30分超。基調講演全体の時間の3分の1を占めていた。また、筆者は同氏の会見や講演などをほぼ取材しているつもりだが、これまで聞いたことがない話も。SAPとNECの密接な関係を強く感じた取材だった。