登大遊氏、日本は「超正統派」のICT人材を育成すべき。そのために、自由な試行錯誤を許容するインチキネットワークの普及に取り組む(前編)。JaSST'22 Tokyo
今回は「登大遊氏、日本は「超正統派」のICT人材を育成すべき。そのために、自由な試行錯誤を許容するインチキネットワークの普及に取り組む(前編)。JaSST'22 Tokyo」についてご紹介します。
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2022年3月10日と11日の2日間、ソフトウェア業界のテスト技術力の向上と普及を目指すイベント「ソフトウェアテストシンポジウム JaSST’22 Tokyo」がオンラインイベントとして開催されました。
イベントの最後には、招待講演として登大遊氏による講演「世界に普及可能な日本発の高品質サイバー技術の生産手段の確立」が行われています。
登氏は講演で、優れたICT技術を日本から生み出すためには「超正統派」なICT技術者を育てるべきであり、そのために登氏自身が中心となって登氏が「インチキネットワーク」と呼ぶ、固定IPアドレス取り放題でBGPで遊べる自由な試行錯誤を許容するネットワークとコンピューティングの環境を、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)とNTT東日本の連携協定を活用して日本中に広めていく、という目標を明らかにしました。
この記事では講演の内容をダイジェストで紹介します。
この記事は3部構成になっています。
前編では主に、ICTの基盤を作れる人材はどのように育っているのかを、登氏自身の経験やAT&Tなどけしからん企業の歴史から見ていきます。
中編では、クラウド基盤を構築できるようなICT技術に優れた人材を「超正統派」と呼んだ上で、超正統派を生み出す上で欠かせないインチキな空間について論じ、その構築に登氏自身が取り組むことを紹介。
後編では講演後の質疑応答を紹介します。ここでは登氏の根底にある超正統派に関するある種の哲学のような考えがうかがえる重要な発言もあります。ぜひ最後まで目を通されることをおすすめします。
また、講演資料は登氏が公開しており、ここからダウンロード可能です。
世界に普及可能な日本発の高品質サイバー技術の生産手段の確立
司会) 登(のぼり)様は1984年、兵庫県尼崎市生まれ。筑波大学に所属していた2003年にSoftEtherを開発し、翌年ソフトイーサ株式会社を起業。2017 年から筑波大学産学連携准教授。2018 年から IPA サイバー技術研究室長。2020 年からNTT東日本本社 特殊局員をされております。
今回は、AWSやWindows、Googleのように外国で作られたものが多いICT基盤を支える最近のサイバー技術。これらを今後日本国内で多数創出し、世界のICTの中心的存在になるために、各個人や会社学校などでの地方として有効と考えられるというテーマでご講演いただきます。
登氏) 登と申します。今日はちょっと1時間ぐらいお話をさせていただいて、30分ぐらい質疑応答をしたいと思います。
さっき紹介いただいた複数の組織は、実は転職しているというのではなくて、全部社員として参加している、という感じであります。
それはインチキみたいな感じなんですけれども、我々はもうインチキとは言わず、これからはこういうやり方はICTにおける「超正統派」だと、そう呼ぼうと思っていて、今日のスライドはそういう思想を述べたいと思います。
そうすればこのJaSSTさんの主題である、高品質なソフトウェアを作る、という目標も達成できますし、同時にそういうソフトウェアが世界中に出ていって広く使われる。
そういうものを作るには計画主義でやるのは駄目で、どちらかというとインチキなやり方をやらないといけないんじゃないかと、今日はそういうお話をしたいと思います。
クラウドのような基盤を作れる人材をどうすれば増やせるか
今の日本の問題は、クラウドサービスを使うことはできるんですけど、AWSやGoogleとか、WindowsやAndroidOSのような基盤が作れる人をどうやって増やせばいいのか。
これが重要だということはどんな人でも分かっていると思いますが、どうすれば増やせるのかはよく分からないんです。
ですが、自分はこれは1万人ぐらいそういうことができる人材が、自由に何か実験できるコンピュータープログラミングができたり、あと制約が多いのはインターネットとかネットワークの部分なのですが、ネットワーク環境で実験が出来たりすることが重要だと思います。
シン・テレワークシステムの裏はインチキシステム
自分の紹介をしますと「SoftEther VPN」というものを昔から作っていて、無料のオープンソースで、Apache2.0ライセンスで、日本でも大企業でもよく使われていて総務省の統計では大企業での利用順位第4位。
これは90%以上は外国で使われております。
このSoftEtherVPNを活用して作ったのが「VPN Gate」というもので、これは最近ですとロシアとかウクライナの問題で、特にロシアは検閲で自由にインターネットにアクセスできないという時、これを使えばできるという。
ちょっと前まではミャンマー、その前は中国だったんです。
こういう分散型のVPNのシステムを作っています。
それをもとにして2020年のコロナ禍で「シン・テレワークシステム」というものを作りました。
肝はSoftEther VPNの技術を大規模化した、SSN-VPNの中継システムであります。
6ページ目はその「シン・テレワークシステム」。セキュアな閉域WAN「LGWAN」これは自治体間を結ぶインターネットとは技術的に切れている秘密のネットワークで、それへのリモートアクセス手段としてシンテレワークシステムを改造して「自治体テレワークシステム」というのを作りました。
鍵になるのはですね、この写真は報道は非常に真面目な感じになってるんですが、実は裏はこのようなインチキシステムになっているのです。
このインチキシステムはちゃんとラックの半分以上を用いて、神棚とかですね、卵かけご飯もあります、危ないメディアコンバータ、これは切れたら困るんですが、なかなか切れないんです。神様が守ってるんですね。
右側はRaspberry_Piと、インチキ中古サーバーを10年前の型落ちの物を大量に買ってきて、それを組み合わせて作ってるんです。
これに公務員の方々、日本の半分の役所の公務員が毎日使ってらっしゃいます。
全部自分たちでやることで良いセキュリティを実現
我々はこういうインチキサーバーみたいなのを並べてやってるんですが、我々はファイアウォールとかIPSとか、買わない。自分たちで作ります。
BGPのインターネットルーターも手作りです。
そうすると自分たちでセキュリティを守らないといけなくなるので、これはGoogleやAmazonもみんなこういうことやっているんです。彼らは自分たちで顧客を守るファイアウォールを作って、我々もそんな感じでやってまして。
結果的に既製品を使うとか業者に任せるよりも、良いセキュリティが実現され、創立後5年間でセキュリティ事故はゼロである。
そしてこの危ないと言われていたシステムが、いまやなんと数十万人の一般のユーザー、または自治体の政府のユーザー、全部がこの部屋で動いているやばい部屋も作りました。
10ページ目、この部屋の入口に、あの怖いお化けが住んでる廊下の写真であります。
11ページ目の意味は、そういうことをやってると、国立大とか高専とかでコンピュータネットワークの実験をしようとすると、そういう危ないことはやめなさいとか、大学のインフラを私設で変更するのは難しいとか言われてできないと。
それで、このもっともセキュリティポリシーが厳密なはずの国の独立行政法人、IPAの一番厄介なところに、あそこに登らが作った自由なネットワークがあるという噂が広まってまして、そこに高校生や高専生や大学生とか社会人研究チームとか、そういう方々が噂を聞いて変なルーターとかを持ち込んで実験もするので、我々はそれを受け入れてるんです。
これはおかしなことであります。
本来、国立大学っていうものはそういう自由なコンピュータネットワークの実験をするために存在するんじゃないかと思うんですけど。
それがなんか小役人みたいな人が最近管理していて、外注業者がやってるとかでですね、本来の実験が大学でできないので、行政部門であるIPAにそれを持ってくるっていう意味不明な感じになっている。
昔は正統派インチキスペースがあちこちにあった
ここでちょっと昔のことを思い出してみましょう。
12ページ目は、日本においては1980年代から、WIDEプロジェクトの村井先生がですね、すごい若い頃にお作りになってすごいんですよ。
日本のインターネットの中心地みたいなのも、だいたいは企業の怪しい地下室とかにあったらしいですね。
それでほかの大学にも、大学の隅っこにインターネット繋ぐための怪しいサーバやルータ置き場みたいな、そういうのがあって、みんな元気でやってて。でも、元気が残ってる組織は非常に少ない。
さっきの村井先生のWIDEプロジェクトはまだ元気が残っている。しかし、他にもこういうふうなことを許容される大学というのは数少なくてですね、東大、慶應、東工大、北陸先端、奈良先端、筑波ぐらいなもんで、他の大学はできないからIPAに持ってくるんだと。
昔は何かこういう正統派インチキスペースみたいなのがあって、そこに変な管理者、寛大な先生みたいな人がいて、寛大な先生が好きなことを若い人にやらしてたんですが、その寛大な先生たちが定年退官されていって、その寛大でかつ問題を起こさないで済むようなマネージメントという職人芸みたいなものを、後世にに教えることなく退官されてしまって、2020年代世代にはこういう環境がほぼ多くの大学で絶滅してて。
同時に、クラウドを使えば便利だからこんなんいらんわ、みたいな感じになって。
でも、クラウドを使ってるだけではクラウドを作ることや、それを超えるものはやっぱりできませんので、やはり大学や企業や役所の隅っこの、このインチキスペースってのは重要なんじゃないかというふうに思うのであります。
アメリカでは、けしからん電話会社がインターネットやUNIXを作った
14ページ目は、そういう試行錯誤みたいなのを一番許さないのは、けしからんNTTの電話会社みたいなところで、特に皆さんがお使いのフレッツをやってるあの保守的なNTT東日本というのは誠に古臭くてけしからんと、皆さん感じてらっしゃるんですが。
実はインターネットやUNIXの歴史を見ると、アメリカでは、このけしからん電話会社といふものは、超正統派のコンピューティング技術が確立される出発点なんです。
ですから電話会社を研究することは誠に良いことです。では電話会社の中を覗いてみましょう。
NTT東の電話局には、この怪しい「安全おしのけてやるような重要な仕事はない」という看板があって、これにオリジナリティがあるかというとないんです。
これはパクリで、AT&TっていうアメリカのNTTみたいなところのパクリなんです。
他にもいろいろ似てるんですけど、NTT東日本のけしからん文化はアメリカのAT&Tとそっくりです。
昔、AT&Tで本当にインターネットを発明した人がパケット通信をやろうとしたところ、なんと94人もの社員がぞろぞろ出てきてパケット通信はけしからんと、回線交換システムがいかに素晴らしいかということで、パケット通信駄目にしたんです。
けしからんのはだいたいどこの国の電話会社も一緒であります。NTT東もついにはパケット通信をやり始めまして、今はフレッツとかNGNってのはもうパケット通信の世界一みたいな通信量があるんです。
それで本当に世界一の通信量があるんじゃないかというルータの写真を秘密で撮ってきたので今お示ししますが、これはこの1平方メートルのブロックの中に東日本のほぼ全ての都道府県から集約される、ほぼ全てのIPoEと言われる通信がこの1平方メートル全部集まってるっていう場所がありまして。
これはもう神様みたいなもので、これは極秘なのでなかなか写真が撮れないんです。ところが前にテレビに出まして、ルータを拝むところを撮りましたので、もう映ってもいいんです。
ICT以外の分野で、日本はなぜ強くなったか?
ICT技術を船に例えると、船の船体の部分がシステムソフトウェア、船の客室とかレストラン、プール、倉庫みたいなのがアプリケーションであります。
アプリケーションの方は多種多様ですがここは競争が簡単で、まあ簡単に勉強できるのです。いまやサーバーレスだとかコンテナだとかありまして、もっと簡単になっていきます。
そのサーバーレスだコンテナだっていうものの、下のレイヤーはどうなっているんやと、下のレイヤは船体で、ますます複雑なものになってる。
わけわからんので怖くて誰もいかないんですね、エンジンルームみたいな感じです。
その怖い怖いものを作ってる企業がMicrosoftとGoogle、Apple、Amazonみたいなところであります。
アメリカが強い理由は、ICTにおいてこの下の部分を抑えているので、これからのサイバー国際関係の中で最も強いです。
日本もICT以外の分野ではうまくやっていて、船なんかは三分の一以上が日本の造船所ですね。このに25ページで述べているように、多種多様な分野で日本はトップになっております。
じゃあなぜトップになれたかといいますと、歴史によりますと、外国に行って勉強して、それをパクるのではなくて、独自に自由な試行錯誤をみんなやったのです。
単なるパクリですと外国を超えることはできないんですけれども、日本の場合は独自に試行錯誤をして技術を進化させてきたので、いつのまにか外国人よりも良い技術を思いつく科学技術がトップになっております。
なんでICTがトップになってないかというと、この試行錯誤不可、勉強不可、セキュリティ実験は危ないじゃないかと言われる。
これは例えば、化学工場を作ったとしたら、工場を作ると石油が燃えて危ないんじゃないかみたいな話で、それは危ないんですけども、それをやらないと試行錯誤ができないから、いつまでたっても外国を超えられないです。
≫中編に続きます。中編では、「超正統派」ICT技術者とはどういう人材か。それを育てるために登氏が取り組むインチキネットワークについて。