即時処理と可用性に自信–エッジコンピューティングのPratexoが日本で新規事業
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エッジコンピューティングを手掛ける米Pratexoが、日本市場で新たに事業を開始した。最高経営責任者(CEO)のBlaine Mathieu氏とアジア太平洋・日本ディレクターの柳原孝志氏に、同社の特色や日本での活動計画などを聞いた。
同社は、米国航空宇宙局(NASA)やPayPalなどの大規模システム開発経験をもとに、テキサス州オースティンで2019年に設立された。データの発生源に近いエッジ環境でIoTと人工知能(AI)などの計算処理ができるよう、Kubernetesをはじめとするオープンソースをベースにしたコンピューティングリソースのソフトウェアおよびサービスを提供している。
Mathieu氏は、自社の特色を「リアルタイム性の高い処理を必要とする、通信が途絶しても計算処理を維持する必要がある環境に適している。クラウドデータセンターとのデータ通信コストも削減する」とアピールする。
利用方法は、管理コンソールからまずエッジのコンピューティングノードの構成や設定を行い、データを出力する現場機器あるいはIoTゲートウェイ装置とのネットワークを設定する。コンピューティングノードを複数設定し、それらを1つのスタックにした「マイクロクラウド」も構築可能という。ローコード開発機能もあり、ソフトウェアモジュールを容易に開発し、再利用することなどもできる。
これによって現場側のエッジで大抵のデータ処理などができるようになる。クラウドデータセンターとは、必要最低限のデータ転送で済み、通信費を節約する。クラウドデータセンターとのやりとりに必要な時間が短くなり、遅延は秒単位からミリ秒単位になるとのこと。また、クラウドデータセンターとの通信が途切れても、エッジコンピューターあるいはマイクロクラウドで処理を続けられ、ミッションクリティカル用途にもある程度対応できるとのことだ。
Mathieu氏は、導入事例にノルウェーの電力集配電会社Hallingdal Krafnettを挙げる。ノルウェーでは電気自動車の普及が急速に進んでおり、充電ニーズも急増しているため、Hallingdal Krafnettにとって電力供給のさらなる安定化が課題になった。また、配電システムの保守性の向上とコスト削減も必要になったという。
このため同社は、ノルウェー全土に約8000カ所あるという変電所にPratexoを使ってエッジサーバーを展開した。変電所にある変圧器の稼働状態に関するデータを利用するためで、従来はこのデータをほとんど活用できておらず、保守担当者が2週間ごとに変電所へ出向いて、機器の異音発生などを直接点検していた。
ただ、変圧器が出力するデータ量は1時間当たり25MBになるという。ノルウェー全国で試算すれば同200GBにもなるため、この規模の量のデータをクラウドデータセンターに転送することは現実的ではなく、変電所のエッジサーバーで大半を処理し、必要なだけのデータをクラウドデータセンターに転送している。現場点検なども、稼働データから故障の兆候が検知されたタイミングに実施するなど、保守担当者の働き方改革がなされた。
現在は、Pratexoを使って変電所のエッジサーバーに14種類のアプリケーションを配備し、運用している。万一の通信障害に備えて、複数の変電所単位によるマイクロクラウドを構成し、基幹データセンターと通信が途絶しても、現場側の稼働を継続できるようにしている。
この他にも、海外では可搬型の電気自動車の充電装置に利用された例があるという。可搬型の充電装置は、大型蓄電池や制御機器、太陽光発電装置などで構成され、トレーラーで運び、一時的なイベント会場などに設置してサービスを提供するという。この装置にエッジコンピューターでデータ処理と管理を行っているという。
Mathieu氏は、こうした事例を一部としつつ、エッジコンピューティングでは多様な利用方法が期待されると話す。
日本での事業活動については、日本法人を設立せず、柳原氏らが日本の顧客窓口になるとのこと。米国本社と直接的にやりとりするという。柳原氏は、日本で想定する顧客の業種に電力やンフラ設備保守を挙げ、「製造や資源エネルギー、通信のMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)も期待される。既に多くの連絡をいただいており、2023年の早々には一定の成果を出すことができると考えている」と述べている。