過去の失敗経験を生かし切る–ベネッセHDの社内コンサルに聞く「DXの方法論」

今回は「過去の失敗経験を生かし切る–ベネッセHDの社内コンサルに聞く「DXの方法論」」についてご紹介します。

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 通信教育「進研ゼミ」などを提供するベネッセグループは、全社でDXを推進し、複数の事業領域で着実に成果を上げている。その背景には、各事業部門の経営戦略に“入っていく”社内コンサルティング組織「DXコンサルティング部」の存在がある。ベネッセホールディングス DXコンサルティング部の部長を務める水上宙士氏に、幅広い事業を展開する企業ならではの「DXの方法論」を聞いた。

 今でこそDXで成果を上げているベネッセグループだが、その裏には2018~2019年頃の苦い経験がある。「当時は“DX”という言葉がバズワード化し始めた頃。上層部から『ベネッセもそろそろDXをやった方がいいのでは』という声が挙がり、組織を作ることになった」と水上氏は話す。

 しかし、DX推進組織を設立したものの、計画の実行には至らなかった。その要因として、同氏は「事業領域の広さ」を挙げる。ベネッセグループは、ベネッセホールディングスを持株会社として5つのカンパニーで構成されており、「よく生きる」という企業理念のもと幼児期から小/中学生・高校生、大学生、社会人、シニア期と人生のさまざまな時期を対象にサービスを提供している。「当時はホールディングス内にDX推進組織を設立して横断的にDXを進めようとしたが、各カンパニーの課題を十分に捉えられず、空中分解してしまった」と水上氏は振り返る。

 そこで2019年度は活動を大幅に縮小し、DX人材の育成に特化。新卒社員を対象とした「DX人財候補生」を7人育成、年間40人の中途採用といった成果も得られたが、その間にもデジタルの活用を前提とした競合が次々と登場し、DX人材へのニーズが実際の育成/採用人数を大幅に上回る「需給ギャップ」が生じていた。

 これを受けてベネッセホールディングスは、自社のDXにおける課題を再定義。(1)多様な事業領域に伴うフェーズの違い、(2)柔軟性の低い既存システム、(3)デジタルを駆使して既存のビジネスモデルを破壊する「ディスラプター」の存在――とした。

 その上で「各事業フェーズに合わせたDXの推進」と「組織全体におけるDX能力の向上」を並行して進め、相乗効果を持たせる方法を採用。「各事業のフェーズに合わせてDXを推進する必要がある一方、DX人材の育成・採用やインフラの整備など、グループ横断で取り組める領域もある」と水上氏は説明する。

 ベネッセホールディングスは2021年、DX推進組織「Digital Innovation Partners」(DIP)を設立。同組織はDXコンサルティング部のほか、グループ全体のDX戦略を手がける「DX戦略室」、各カンパニーのデータ活用を進める「データソリューション部」、DX人材を育成・採用し、制度改定を推進する「DX人財開発部」、インフラの構築・運用などを行う「インフラソリューション部」などで構成される。こうした体制のもと、先述した「各事業フェーズに合わせたDXの推進」と「組織全体におけるDX能力の向上」を並行して進めている。

 各カンパニーは複数の事業部門で構成されており、事業部門が翌年度の事業計画を作成する際、DIPのリーダー陣も検討会に参加する。事業部門が立てた施策に対して、DXコンサルティング部がデジタル面での課題を指摘し、「同部の人材を派遣する」などの解決策を提案する。その上で、両チームから選出されたメンバーが各プロジェクトを推進する形を取っている。「この体制により、カンパニーや事業部門の課題を捉えられず、空回りしてしまう事象は発生しなくなった」と水上氏は手応えを見せる。

 しかし、事業会社の社員がいきなりコンサルティング業を始めるのは難しい。そこでコンサルティング企業出身の人材を積極的に採用し、DXコンサルティング部では現在約40人のメンバーのうち約8割が中途社員で、その多くがコンサルティング企業から来ているという。「コンサルティング企業ではプロジェクトの実行まで見届けられないケースもあり、そこにもどかしさを感じて入社する人が多い」と水上氏は語る。

 一方、約2割のプロパー社員はグループ全体の経営状況を概観し、経営層に直接提案できる点に魅力を感じて同部に参画しているという。コンサルティングのスキルに関しては、コンサルティング企業出身のメンバーと働く中で習得するほか、オンライン学習プラットフォーム「Udemy」などを活用して学習している。まずは本来の業務と兼業する形で始め、最終的にはDXコンサルティング部に振り切って働くケースが多いという。

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