中国でSaaSが普及しない理由–“SaaS不要論”の原因を探る

今回は「中国でSaaSが普及しない理由–“SaaS不要論”の原因を探る」についてご紹介します。

関連ワード (中国ビジネス四方山話、開発等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 今夏、「中国不需要SaaS」(中国でSaaSは必要ない)という記事をきっかけに、中国のIT関係者(特にSaaS事業者)によるSaaS不要論が続々と投稿されている。中国のSaaS市場は不景気というわけではない。市場自体は拡大しており、情報化の流れの中でクラウドに移行した企業の割合は78.3%というデータもある。それでも「どうも中国の商習慣にSaaSは合わない」という投稿が次々と出てきているのだ。

 中国では、多くのSaaSスタートアップが立ち上がっており、世界の人気製品と同様のものを国内向けに提供していることも多い。中国のネットサービスは他国のまねから始まり、そこから独自に伸ばしていく。その背景として、昨今の中国のネット環境で言えば、国外にユーザー情報を保存するサービスは基本的に利用できず、国外へのインターネットアクセスにも制限がある。そのため、模倣したサービスを自国で開発し、利用するのが中国的には「正しい選択」というわけだ。

 一口にSaaSといっても、製造業などに特化したものやバックオフィス業務を支えるものなどさまざまだが、今回話題になっているのは後者である。

 中国のソフトウェア市場はこれまで、営業担当者が客先に訪問して製品の説明やデモを行い、導入担当者が客先に常駐してソリューションを構築するという販売モデルが習慣化していた。特に大企業ではカスタマイズニーズが高く、インターネットや営業電話だけで受注するのはレアケースだ。

 中国のインターネット環境は、人と交流するなら「微信」(WeChat)、物を売るなら「淘宝」(Taobao)や「京東」(JD.com)、「拼多多」(Pinduoduo)、ライブ配信/動画なら「抖音」(Douyin、中国向けTikTok)といった具合に、巨大IT企業のプラットフォームに強く依存している。あえてドメインやインフラを確保して独自のサイトを立ち上げる必要性もないし、独自仕様はむしろユーザーから反発を受けるという声もある。

 その上、微信の騰訊(テンセント)、淘宝の阿里巴巴(アリババ)などもクラウド事業を強化しており、さまざまなツールを用意している。SaaS事業者の必要性はますます薄れていく。また、最近になってようやく改善されつつあるが、「(アリババの)淘宝の商品リンクを(テンセントの)微信経由で知人に送れない」など、競合企業のサービスと連携しなかったり、場合によっては遮断したりすることもある。そういう点もSaaSの使いにくさにつながっている。

 例えば、微信は“国民的チャットアプリ”であるため、上司/部下間や部門間の連絡、社外とのやりとりに利用でき、グループチャット機能はほとんどのチームのニーズも満たせる。微信にも不便なところがあるのは認めながらも、新たなツールの導入は不要だという声もある。

 また、中国企業では事業の大転換がよくある。企業の急速な変化に対して、中国で出回る多くのSaaSでは柔軟性が足りず、ニーズに十分対応できないという意見もある。年間ライセンスを購入したものの、1年もたたずにビジネスが調整され使えなくなるケースもある。業績が好調だと思っていたのに、ある日突然、倒産寸前という報道もよく目にする。

 中国の若い社会人は動きが早い。1~2年に1度といってもおかしくないほど高い頻度で転職を繰り返す。SaaSの料金体系はアカウント数に応じたものが多く、従業員の退職に伴うアカウントの管理には手間がかかる。勤怠管理を強化するSaaSなどを導入すれば、忠誠度の低い従業員は一気に逃げ出してしまうかもしれない。

 人事・総務・労務系のSaaSを信用しない人も多い。中国では、従業員が退職時に会社の機密情報を窃取したという事件がよく報じられている。顧客情報は企業にとって最も重要な資産だが、こうした報道を頻繁に目にする中、機密保持契約を結んで「当社のSaaSは安全です」と言われたところで、顧客や財務などの情報を他人に管理してもらいたいかというと、そうはならない。

 中国のSaaSは海外に進出できるのだろうか。その多くは世界のサービスをまねて国内向けにカスタマイズしたものになるが、それほど多くのユーザーを抱え込んでいるわけではないので、改良も進んでいない。微信は機能を大幅に拡張し、“スーパーアプリ”と呼ばれるまでになった。「X」(旧Twitter)を模倣していた当時と大きく形を変えたが、これは多くのユーザーを抱えていたからこそだ。サービスの提供が始まってから日も浅く、長く使われることもなければ、オリジナルと正面から挑んでも勝ち目はないだろう。

 中国の商習慣とSaaSが合わない理由を見ていくと、どうやら良くも悪くも中国の場当たり的なのスピード感と、他人を信用しない風潮が主な原因のようだ。中国と欧米のSaaS企業には大きな格差がある。国内の導入現場にはさまざまな障壁があり、世界進出のハードルは高い。そういう状況の中、中国のSaaS企業では開発者らが頭を痛めている。

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