「Notion AI」導入企業に見る「生成AIの導入・活用で今後大切なこと」
今回は「「Notion AI」導入企業に見る「生成AIの導入・活用で今後大切なこと」」についてご紹介します。
関連ワード (CIO/経営、生成AI導入の最前線--「Notion AI」がもたらす業務変革の実例等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
「Notion AI」導入企業の事例を通して、生成AIのビジネスユースについて紹介している本連載ですが、最終回となる第3回のテーマは「生成AIの今後」です。これから生成AIを導入する上での重要な課題やポイントに関して説明したいと思います。
ただし、本稿はNotion AIを利用いただくお客さまからのフィードバックを通して得た知見を基に、いちサービス提供側の立場から生成AIについて述べるものです。私はAIの技術者でも専門家でも評論家でもないため、AIの未来や倫理、法律の在り方などについて論じる立場にはありません。本記事はあくまでも生成AIをサービス提供する最前線の会社で「今起きていること」をベースにしたものですので、その点は最初にご了承ください。
さて、生成AIの導入に関する第1回、そして生成AIの活用事例と導入効果に関する第2回で説明した通り、Notion AIの導入はまだ一部の企業に限られ、様子見または検討段階という企業が多数を占めるのが現状です。「ChatGPT」が一般公開されたのは2022年11月、またNotion AIが正式リリースされたのは2023年2月とまだ日が浅いことから、生成AIが国内企業に広く浸透し、活用が定着するのにはもう少し時間がかかるものと思われます。
しかし、生成AIは生産性向上の観点で実に大きな効果を発揮しているため、このまま順調に活用が定着していけば、投資収益率(ROI)やビジネスケースの算出が求められるようになるでしょう。併せて、生成AIを導入する上で考慮すべきポイントといかに向き合っていくかも大きな課題となります。具体的には、業務データを利用することによる個人情報や機密情報などの漏えいリスクや悪用リスク、故意または偶然に生成されたデータの知的財産権の侵害、生成されたデータの正誤の判断、そしてこうした問題が発生してしまったときのレピュテーションリスクや責任の所存などです。また、社内で正しく利用するための制度・ルール作りや、効果的に利用するための教育コスト、さらに広い視点では「人間とAIの役割分担」なども課題となってくるでしょう。
こうした生成AIをビジネスに利用することの課題に関しては、私が紹介するまでもなく、さまざまなメディアで論じられているのでそちらを参照いただくとして、ここでは、生成AIの今後に関して私なりに思うところを幾つか述べたいと思います。
まず、サービスを提供するプロバイダー側の視点から見ていくと、大規模言語モデル(LLM)自体の精度の差が今後ますます小さくなり、費用がより安価になっていくことが予想されます。Notionの共同創業者のIvan Zhaoは、このことを「電気のような存在になっていくと」と表現しています。特に米国で開発されるSaaSのほとんどはLLMを前提としたものとなり、LLMを搭載していないサービスは時代遅れのものになるでしょう。また、それに伴い、プロバイダー側にはセキュリティやデータポリシーの透明性および説明責任が強く求められるほか、LLM自体がSaaSに不可欠となることから、LLM自体が止まると業務が止まるといったことが起こり得るようになります。LLMを組み込んだサービスを提供する企業にとってはそのリスクをどのように低減するかも課題となります。
ただし、ここで私たちが重要だと考えるのは「LLMは全てを解決するものではない」ということです。なぜなら、SaaSを提供するベンダーはそもそもペインポイントを解決するために存在し、生成AIはそれをあくまでサポートするものだからです。少なくともNotionではドキュメント管理、プロジェクト管理、ナレッジ管理のペインポイントを解決するための1つのテクノロジーとしてLLMを位置づけています。ペインポイントのない世界に突然AIが現れて全てを解決することはないのです。
次にユーザー側の視点に立つと、生成AIを日常業務で活用するのが当たり前の世の中が間もなくやってきます。そのために生成AIをできる限り早く業務に導入し、どんどんトライして試行錯誤を繰り返す必要があるでしょう。今のうちから活用を積極的に促進していかないと、いつの間にか大きな時流に自社だけが取り残されてしまうことになります。そしてそれを避けるには「従業員のレディネス(Readiness)を高める必要がある」ことを、Notion AIを既に導入する多くの企業が述べています。つまり、生成AIをおもちゃのように「面白いね」と言って使っている段階から、仕事に役立つレベルにまで昇華させる必要があり、Notion AIを導入している企業は今まさにその段階に入っています。
また、生成AIを今後導入する上では、身の回りにLLMレディーの製品が増えていくことから、製品選びの判断がますまず難しくなってくるでしょう。そしてその判断を的確に行うためには、業務で使うデータがどこにあるのか、どのような課題を解決するためにどんなツールを使うのか、そもそもどのようなデータがあってそれは今後どうなっていくのかといったことをしっかりと事前に検討しておく必要があります。
ここで情報やツールが分散してしまっているのであればそれらを統合して管理しようというのがNotion的な世界観であり、Notion AIがユーザー企業の皆さんに選ばれているのも「『Notion』上にデータが既にある」からこそなのですが、これをもう少し広い視点で捉えれば「ツールやデータをいかに統合して従業員の業務フローに沿ってAI活用を確立できるか」、そして「それを社員にどのスピードで展開できるか」が鍵になるということです。
日本企業でこのような新しいテクノロジーが登場すると、まずはDX部門において導入が進められ、新しい働き方が模索されるというのが近年では一般的です。しかし、実際にはいくらDX部門が積極的に働きかけても、既存のビジネスのワークフローやメンタルモデルの変革に成功している企業はほとんどありません。なぜ、このような結果が生まれてしまうかというと、DX部門ではない一般の従業員は不便を感じていない、または業務を変える必然性を感じていないからです。
これは生成AIでも同様でしょう。ですから、生成AIを今後導入して活用を図り、全体的な利益を享受するためには、それを乗り越えていく必要があります。そのために大事なことは、DX部門や先進部門だけが利用するのではなく、「普段使いの中で意識せずに従業員全員が自然に使っていくこと」だと思います。
これまでテクノロジー業界では「生産性が上がる」をサービス提供の1つのキーワードとしていましたが、実際にそれを利用する企業/ユーザー側からすると何をもって生産性が上がるのかが分からないことが多かったように思います。テクノロジーのレベルは近年ずっと向上し続けていますが、それと反比例して私たちが日常的に体感する利便性はだんだんと小さくなっています。しかし、こと生成AIに関しては「実際にユーザーが触ってそれが実現できることを分かりやすく体験できる」という点において実に身近なテクノロジーであり、またお客さまと会話をしていると、それによって「会社や組織が変わるのではないか/変えられるのではないか」という期待値が大きく高まっていることを強く実感します。
「ゆでガエルの法則」ではありませんが、大きなギャップを感じないと人は変わろうとは思わないものです。生成AI、そしてLLMを契機に、「今まで通りではよくないよね」「生産性が爆上がりする世界がありそうだ」と感じられていることこそがとても素晴らしいことではないでしょうか。