中国でVPNの利用は違法なのか再考する
今回は「中国でVPNの利用は違法なのか再考する」についてご紹介します。
関連ワード (中国ビジネス四方山話、開発等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
中国には「グレートファイアウォール」(GFW)と呼ばれるインターネットの制限がある。中国国内から「Google」「YouTube」「X」(旧Twitter)などのグローバルサービスにアクセスするには、仮想私設網(VPN)などを使って「壁越え」をする必要がある。しかし、VPNソフトウェアの販売が原因で逮捕されるケースが頻繁に報じられており、使用しただけで逮捕されることもまれにある。
2024年もVPNソフトウェアの販売で逮捕されたニュースがあり、他にも4年前にVPNソフトウェアを利用したことが発覚し、警察の取り調べを受けたという報道もあった。一方で、Xなどのプラットフォームでは多くの中国在住と思われるアカウントがVPNを利用している様子が見られ、外国人が逮捕されたという事例は聞かれない。
過去の逮捕事例を振り返り、何が違法とされるのか、その根拠は何か、そして合法とされる行為について、中国の報道や弁護士の投稿を紹介する。削除されずに残っている情報を集めたので、中国政府のインターネットに対する方針と大きく異なる解釈はないはずだ。
2024年7月に逮捕された唐さんは、同年3月以降、海外のウェブサイトからさまざまなVPNソフトウェアやSNSアカウントを入手し、それらを販売して多額の利益を上げ、「社会秩序を著しく混乱させた」とされている。このようなニュースでよく取り上げられるのが、中華人民共和国刑法第285条の「コンピューターシステム侵入罪」だ。
これは政府システムや先端科学技術システムへの侵入を対象とし、懲役3年以下の罰則が科せられる。ただし、VPNソフトウェアはその仕組み上、ネットの壁を越えるものであり、GFWのシステムに侵入して制御するものではない。VPNソフトウェアの製造・販売がコンピューターシステムへの侵入や違法な制御のためのプログラムやツールの提供に該当するかについては、そうではないと解釈する中国の弁護士もいる。
中国国外の国際ネットワークにアクセスする際の規定である「中華人民共和国計算机信息網絡国際聯網管理暫行規定」の第6条では、国際ネットワークに直接接続するコンピューターネットワークは、郵政部門の全国公衆電気通信網が提供する国際出入口経路を利用しなければならないとされている(第6条、第8条)。また、いかなる組織や個人も、国際ネットワークのための他のチャネルを確立したり使用したりすることはできないとも規定されている。では、公式に海外にアクセスするためには何を利用すればよいのかというと、中国の大手3大キャリアである中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)が提供するサービスを利用することになる。
中国大手キャリアのサービスを契約するのは手続きが面倒に思えるかもしれないが、日本を含む中国に渡航する人向けに、ネットの壁を気にせずインターネットを利用できる旅行者用SIMカードがAmazonや楽天で販売されている。中国国内でSIMを挿すと、大手3大キャリアのいずれかの通信網を利用していることが確認できる(商品パッケージにも記載されている場合がある)。また、外資系企業には特別なサービスが提供されることもある。外資系企業が不便を感じないように便宜が図られているが、自由にインターネットを利用できるからといって、例えば社内のスタッフがポルノコンテンツを収集するような行為はチェックされる可能性があるため、注意が必要だ。
ちなみに、ポルノコンテンツのダウンロードは「計算机信息網絡国際聯網安全保護管理方法」に違反すると規定されている。中国のSNSやニュースサービスでは、ポルノ、賭博、テロ、暴力を扇動するコンテンツが禁止されており、これがその根拠となっている。また、「治安管理処罰法」では、ポルノコンテンツのダウンロードが第68条に違反する可能性があり、他人と一緒に視聴した場合は第69条に違反する可能性があるとされている。一方で、民法第1032条には「自然人には権利がある」と記されており、18歳以上で拡散せずに視聴するだけであれば違法ではないという解釈も存在する。
さて、唐さんの事件に話を戻すと、彼は海外のSNSアカウントを入手して販売していたとも報じられている。もし、世界に向けて発信したい中国人にアカウントを販売していたのなら、日本のアカウントに中国から大量のリプライが寄せられることがあったのも、唐さんのような業者が関与していた可能性がある。
さらに、騰訊(テンセント)や網易(ネットイース)などの大企業も含めた中国企業から「遊戯加速器」(ゲームアクセラレーター)というVPNサービスが提供されている。これは名前の通り、オンラインゲームが人気の中国で、ゲームサーバーへのアクセスを高速化するためのものだが、実際には海外のさまざまなサイトへのアクセスも可能だ。中には、ユーザーの多様なニーズに応えるために無料で提供されているものもあり、中国のネットユーザーは簡単にGFWを越えるツールを手に入れることができる。
遊戯加速器はグレーゾーンのサービスだが、海外にアクセスしなければ違法ではないとする弁護士の意見が多い。海外サーバーにアクセスし、「計算机信息網絡国際聯網安全保護管理方法」で禁止されているポルノ、賭博、テロ、暴力などのコンテンツを保存・拡散すると違法となる。例えば、Xでは中国在住の中国語アカウントが日本人アカウントに誹謗中傷コメントをすることがある。
VPNユーザーよりも手軽に入手できる遊戯加速器ユーザーがXで自由に投稿していた可能性もあるが、「計算机信息網絡国際聯網安全保護管理方法」では、外国への誹謗中傷やヘイト行為は禁止事項に含まれていないため違法ではない。インターネット空間の治安を守るために、外国への誹謗中傷やヘイト行為を禁止行為に含めてほしいところだ。