横浜市教育委員会と横浜市立大、児童生徒26万人のデータを用いて心の不調を軽減

今回は「横浜市教育委員会と横浜市立大、児童生徒26万人のデータを用いて心の不調を軽減」についてご紹介します。

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 横浜市教育委員会は11月21日に「第2回 横浜教育データサイエンス・ラボ」を開催し、その中で横浜市立大学と共同研究契約を締結したことを発表した。両者はこの締結を通して、全国最大規模の教育ビッグデータを活用した的確なケアシステムを開発するとしている。

 横浜市教育委員会 教育長の下田康晴氏は横浜市立大学との共同研究について、「横浜市の教育データを医療の専門的な知見に基づき、分析を行って児童の心の状態に応じたケアにつなげる『横浜モデル』を作り上げていきたい。将来的にはリアル、オンライン、バーチャルを含めて3層の空間で子どものケアを行っていきたい」と意気込みを語った。続いて横浜市立大学 理事長の近野真一氏は、「生きづらさを感じているお子さんの支援やケアをどうしていくのか、その支援を進めることで教員の負担を少し軽減できるのではないか。そういったことにつながるような重要な成果が出るのではないかと期待している。本学としても全体で研究を支援していきたい」と説明した。

 横浜市は、内田洋行が開発・構築した学習支援システム「横浜St☆dy Navi(横浜スタディナビ)」を市立小・中・義務教育・特別支援学校の計496校に導入し、6月から運用を開始している。26万人の児童生徒と2万人の教職員が活用しており、蓄積された教育データの活用・分析を進め、「横浜教育DX」を加速しているという。

 横浜教育データサイエンス・ラボは、教職員や大学研究者、データ分析・加工などの技術を持つ企業で形成される研究の場で、教育用ビッグデータを基に、教職員や児童生徒に有効な教育データを提供することを目的に作られた。9月に行われた第1回 横浜教育データサイエンス・ラボでは、「子どものこころの不調を軽減する『横浜モデル』の開発」をテーマに具体的な取り組みが紹介された。

 今回の横浜教育データサイエンス・ラボは、「子どものこころの変化をとらえ、安心な学びの環境をつくる『横浜モデル』の開発」をテーマに、児童生徒から収集したデータで分かったことや横浜モデルの展開、出席した横浜市の小・中学校や大学の教員が今後の横浜モデルに対する期待を語った。

 横浜モデルは、約26万人の児童生徒を対象に、データで心の変化を捉えて心の不調を軽減する取り組み。横浜スタディナビを用いて、リアル、オンライン、バーチャルの3層空間で、どこにいても同じように見守り、支援ができる仕組みを横浜から発信するという。

 横浜スタディナビは、「児童生徒用ダッシュボード」「教職員用ダッシュボード」「教育委員会用分析システム」――の3種類のダッシュボードを備えている。児童生徒は学習面だけでなく、心や体の健康状態を「毎朝の健康観察」から記録することができ、教職員は「よい」「すこしよい」「ふつう」「すこしわるい」「わるい」の5段階から児童生徒の健康を観察できるという。

 9~10月の2カ月間で市内の小・中学校計483校から収集できた毎朝の健康観察のデータは約500万件に上る。「よい」「すこしよい」と回答した児童生徒は63.4%、「すこしわるい」「わるい」と回答した児童生徒は7.3%という結果から、横浜市立大学 研究・産学連携推進センター 特任講師の雨宮愛理氏は、「全体として、心の調子が悪い子どもがどれほどいるか見えてきた。一方で、今、誰に対して、いつ、どのような支援を行うべきかが見えてこない。私たちは、地域や学年、月によって心の調子がどう変わるのか、なぜ調子が悪くなってしまうのか、その症状はどのようなものか、どのような支援につなげるべきかを見ていきたい」と説明する。

 今後、横浜スタディナビでは「気分の落ち込み」や「興味や楽しさの喪失」などの抑うつ(気分の落ち込み)症状を評価できる項目を用意し、それぞれの項目に対する具体的な支援を行えるようにしていくという。

 横浜市教育委員会と横浜市立大は、このような児童生徒のデータと医療の専門的知見を連携させることでメンタルヘルス不調の分析を行い、不調になる前の段階で児童生徒の心の変化を捉え、適切なケアプランにつなげていく。

 この取り組みを進めるため、横浜市立獅子ケ谷小学校と横浜市立瀬谷中学校がモデル校として11月22日から2025年1月までデータ収集を行うという。モデル校での試行として、横浜スタディナビをアップデートした。1つは、児童生徒の心の状態の変化を精緻に捉えられる「こころの温度計」を追加。心の状態を0~100で毎日示し、変化の様子をグラフで可視化できるようにする。

 こころの温度計の特徴は、0~100を数字で入力するのではなく、自分の指でマークをスライドさせて心の状態を示す。横浜市立大学 研究・産学連携推進センター 教授の宮崎智之氏は、「教育現場ではなじみがないと思うが、医療業界では、例えば手術をした患者に対して翌日の痛みがどれくらいあるかを数値で聞くよりも、自身の指で示した方が正確に評価できることが分かっている」という。可視化したデータを解析して大規模データと照らし合わせることで、適切なタイミングでのケアができるようになるとしている。

 アップデート2つ目は、子どもの心の状態を診断して医療につなげられるようにするアンケート機能を追加した。月に一回「こころの定期健診」として、幸福度や抑うつの状態を把握する質問を20問程度回答する。収集したデータを可視化することで、学年ごとに調子の悪い児童生徒が何人いるかを測ることができ、不調の原因が見えてくるのではないかとしている。また、この結果から支援が必要な児童生徒の割合や充当する支援員の数などをある程度判断できるようになるとしている。

 最後に行われたグループディスカッションでは、参加した横浜市内の小・中学校の教員から、毎朝実施している健康観察の課題や横浜モデルへの期待などが寄せられた。あるグループでは、横浜スタディナビを活用して児童の健康観察を行っているが「データを収集してもその後の対応が悩ましい」との課題が出た。どの程度の不調で児童に声をかけるべきか、また保護者への伝え方も難しく、「医療につなげる基準があれば声をかけやすい」と話す。一方で、「データが残ることで、自分自身の感覚だけでなくデータに基づいた声かけができるようになる」とのポジティブな声も挙がった。また、この取り組みを機に「横浜の学校は医療につながっていることを周知できればいい」といった期待も寄せられた。

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