第52回:兼任ひとり情シスは「取締役 総務部長」–一歩間違えれば諸刃の剣にも

今回は「第52回:兼任ひとり情シスは「取締役 総務部長」–一歩間違えれば諸刃の剣にも」についてご紹介します。

関連ワード (「ひとり情シス」の本当のところ、運用管理等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 日本でも最高情報責任者(CIO)や最高デジタル責任者(CDO)など、数多くの肩書が大手企業を中心に使われるようになりました。しかし、COOの肩書はまだあまり一般的ではないと思います。COOは組織全体の執行や業務に責任を持つ立場にあり、日本語では「最高執行責任者」と称されることが多いです。イメージとしては、代表取締役会長が権限を持ちつつも、経営権を代表取締役社長に移行させていく時に、社内の業務を全体統括させることに似ています。

 米国では大手企業だけでなく、中小企業にもCOOが存在します。最高経営責任者(CEO)を補佐するCOOが実質的なナンバー2として、組織全体を統括する役割を担っています。第二次世界大戦後、マッカーサー将軍が日本の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)にいた時の実質的な部下は参謀長(Chief General)の1人だけでした。これは米国の組織では一般的なものです。

 ITシステムが稼働しない理由として、「情シスの対応が遅すぎる」「営業部門が新システムの要件定義に協力しない」「技術部門がシャドーITで勝手なことをしている」など、情シスと各部門との間に協調関係がないことが挙げられます。このような問題の解決策として、社内組織の調整を社長が行えばよいと思われるかもしれません。しかし、取引先への訪問や銀行筋との打ち合わせ、さらに地域活動や業界活動など、思いのほか社外活動があるので社長は多忙です。そのため、社内組織の利害を調整するための時間をなかなか捻出できません。しかし、COOならば社内の効率化を求めて組織間を調整することもできます。

 また、COOは事業に責任を持つので、組織を超えた人事異動などを行うことで組織の「ストリームライン化」を実現できます。ストリームラインとは水泳競技で用いられる言葉で、水の抵抗を可能な限り減らした流線形の姿勢のことです。レーシングカーでも同様に極限まで空気抵抗を低減させてスピードの向上を目指します。組織の抵抗勢力を和らげてビジネススピードの向上を狙うのも、これらと同じイメージなのかもしれません。

 外資系ITベンダーのセミナーに参加すると、外国企業の成功事例が動画などで紹介されることもあると思います。大手企業の事例ではCIOなどが登場しますが、中堅中小企業の事例では、COOや事業部長などが多いです。今後はこの点にも注目してみてください。

 従業員100~499人の中堅企業をたった1人の情シスで切り盛りするのはとても大変な仕事だと言われます。専任者が1人もいない兼任情シスとなると、ひとり情シスよりもさらに大変ではないかと思うでしょう。しかし、極めて稀有な存在ではありますが、兼任情シスの中にはCOOのような立ち位置の方もいます。取締役 総務部長や取締役 管理部長などの肩書ですが、実質は社長に次ぐナンバー2です。

 ある兼任情シスの方は、テクノクラート(技術官僚)のように工学系全般を理解されている技術出身の経営幹部で、IT系にも精通していました。中堅企業の経営層に提案する経験豊富な営業職でしたら、このようなタイプの方に1~2回はお会いしたこともあるかもしれません。このタイプの方はITベンダーにいる知人などのネットワークを使って自社に適したパートナーを選定し、自社のシステムを常に把握しています。

 しかし、このようなCOOタイプの兼任情シスは諸刃の剣であり、一歩間違えれば大きなトラブルにつながる可能性もあります。十分な検討をせず独断で知り合いのITベンダーを選定した結果、「動かないコンピューター」になってしまったというケースもあります。ITやデジタルの活用においては、「トップの関与が重要である」「失敗を恐れてはならない」といったことがしばしば言われます。その意味では積極的に関与しているので、経営層の失敗にも寛容でいるべきなのかもしれませんが、甚大な被害が生じる恐れもあるのです。

 組織構造や命令系統をシンプルにしてスピーディーな意思決定を行うためにはCOO体制が有効だと言われています。しかし、「三人寄れば文殊の知恵」の通り、営業部門や技術部門と情シスが協調することで新しいアイデアが生まれる可能性があります。また複数部門の協調は「和を以て貴しとなす」という心理的安全性の高い企業文化の構築につながる面もあります。強い指導力と全社体制のどちらがいいとは一概に結論は出せませんが、会社や状況に合わせてどちらにするのが正しいかを判断すべきだと思います。

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