クラウドフレアのCEOに聞く、大規模障害の背景や地政学的リスクへの対応

今回は「クラウドフレアのCEOに聞く、大規模障害の背景や地政学的リスクへの対応」についてご紹介します。

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 コンテンツ配信ネットワーク(CDN)やネットワークセキュリティサービスを手掛けるCloudflareは、2010年に創業し、現在はインターネットトラフィック全体の約2割を処理する規模に成長した。インターネットインフラを支える企業となったが、2022年6月には新ネットワークアーキテクチャーの導入に伴う大規模障害を経験。共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるMatthew Prince氏は、コロナ禍で多くの学びと決断があったと述べる。初来日した同氏に、経営でのチャレンジなどを尋ねた。

 同社は2022年9月27日に創業12周年を迎えた。これまでのビジネスについてPrince氏は、「創業時に10カ国でサービスを始めたが、わずか2カ月後に世界的な需要の存在を感じ、このビジネスが世界に求められるものだと確信した。『CloudflareはCDNの会社』とのイメージを持たれるが、われわれはインターネットに信頼と安全をもたらすイノベーションの実現を最優先に取り組んでおり、その結果としてパフォーマンスも得ることができ、これらが顧客の支持につながっている」と話す。

 現代のインターネットは、まさに世界のインフラの1つであり、ネットワークサービスには、限りなく100%に近い安全性と可用性が求められるほどにもなってきている。Prince氏は、とりわけ革新的なセキュリティ機能に注力してきたといい、例えば、2018年にはインターネットの利用履歴を保護する「1.1.1.1」ツールを提供したほか、最近では6月に発生したピークで毎秒2600万件もの分散型サービス妨害(DDoS)攻撃への対処するなど多くの成果を出している。

 当然ながら市場には、さまざまな領域に同社の競合が数多く存在する。「創業してしばらくは、あえてCDNでの競合の顧客には訪問しないという方針だった。ネットワークサービスの同業他社を競合とは考えず、むしろ有力なハードウェアベンダーを競合と位置付け、彼らにイノベーションで勝負している。現在でこそネットワークサービスの競合とも戦うが、特にネットワークで求められる包括的なセキュリティを提供できるのはわれわれだけだと考えている」とPrince氏。

 Prince氏によれば、主要な顧客は創業からしばらく開発者やスタートアップ企業であり、エンタープライズ企業の獲得が課題だったが、事業の成長によりエンタープライズ顧客の獲得も進み、現在ではFortune 1000の約30%がCloudflareを利用しているという。

 同社のビジネスが順調に拡大する中、米国時間の6月21日に同社のサービスで大規模な障害が発生した。Cloudflareのネットワークを利用するオンラインサービスにアクセスができない状況が世界中で起き、日本では障害の発生が日中だったことから、多くの利用者に影響が出た。

 障害の発生原因は、世界各地の同社データセンターを接続する「Multi-Colo PoP(MCP)」と呼ぶ新しいネットワークアーキテクチャーへの移行だったとする。Prince氏は、「コロナ禍に直面して従来のネットワークアーキテクチャーでは、将来のニーズに対応が困難となることやサービスの信頼性、セキュリティに大きな課題を伴うことが判明し、ネットワークアーキテクチャーを抜本的に見直す決断をした。こうした重大な変更を行うことはリスクだが、それ以上に変更をしないというリスクの方が大きいと捉えたからになる」と話す。

 Prince氏によると、コロナ禍となった2020年前半に同社が処理するインターネットトラフィックが2倍に急増した。感染対策として世界中の都市がロックダウンされ、企業もリモートワークを一斉に導入し、たった数カ月でインターネットトラフィックが爆発的に増えたのは記憶に新しいだろう。

 「例えば、スムーズに流れていた高速道路でいきなり自動車の通行量が激増したとしよう。だからといって、すぐに工事を行い、車線を増やすことができるわけではない。2020~2021年は多くの企業が経験したように、われわれもインフラの安定性と信頼性を維持するための困難と多大なストレスに向き合わなければならなかった。サービスのボトルネックやリスクが分かるにつれ、将来においてCloudflareのサービスをレジリエントなものにするためにも、この時点でネットワークアーキテクチャーを変えなければならなかった」

 MCPの開発には約18カ月を投じ、6月に切り替え作業を行ったところ大規模障害に至った。万全に準備し、予見される問題の発生リスクを可能な限り除去した上で実作業に臨んだが、予期せぬ問題が起きてしまったのだという。

 「ネットワークアーキテクチャーの変更は、いわば心臓の外科手術とも言える。万全に準備をして手術に臨み、いざ胸部を切開して実際に部位を見てみると、準備段階では全く分からなかった状況が分かることがある。今回はそれが起きてしまった」

 昨今は、クラウドサービス事業者や通信事業者でもネットワークに関する作業が原因となる大規模な障害が度々発生している。利用者にとって、通信が常に安定していることは半ば当然のように捉えがちだが、高度化・複雑化するばかりのネットワークシステムが安定して運用されている背景には、技術者の尽力がある。このことは利用者の目に見えない部分だ。

 「人がネットワークを支えている以上、絶対にミスが起きないということはあり得ず、ミスや問題が起きることを念頭に、できる限りリスクを減らす努力を重ねていかなければならない。今回の障害が世界中の顧客の影響を与えてしまったことにお詫びを申し上げる。ただ、この経験を生かして改めてネットワークアーキテクチャーの変更を行い、無事に切り替えることができた。これによって予見されるさまざまなリスクやボトルネックを解消することができ、これまで以上に信頼と安全を顧客に提供していくことができると考えている」

 なお、6月の同社の障害は発生から対策を完了するまで、1時間半ほどだった。この間にも状況や対応の進展具合などをブログやSNSで随時発信していた。日本の顧客の反応についてクラウドフレア・ジャパン 執行役員社長の佐藤知成氏は、「障害が起きてしまったことは残念だったが、対応については評価の声を頂戴している。サービス運用における透明性の向上に努め、これかも顧客からの信頼に応えていく」と述べている。

 またPrince氏は、ロシアによるウクライナへの侵攻についても言及した。多くのIT企業がロシア市場から撤退する中で、CloudflareやAkamaiがロシアでのサービスを継続する方針がニュースになった。

 「同国には政府に批判的な立場の組織や人々も多数おり、彼らに世界の情報を適切に伝えるためにインターネットを提供することが極めて重要だと考え、サービスを維持している。このことは西側諸国からの要請でもある。Cloudflareとしては同国政府および政府関連企業との一切のビジネスを既にストップしており、実際のところ私は、同国から入国を拒否されている米国のテクノロジー関係者の1人としてリストアップされている」

 今回の初来日についてPrince氏は、「Cloudflareにとって日本は非常に重要な市場の1つ。本当は10周年(2020年)の節目に来たかったが、残念ながらコロナ禍で延びてしまった」とコメントしてくれたが、「日本にとってサイバー空間における地政学的なリスクは、ロシアに限らず中国などさまざまにあり、今回の訪問で多くの日本の組織から懸念の声を聞いた。われわれは、このような脅威に顧客が直面することがないよう縁の下から守っていく所存だ。日本のチーム(クラウドフレア・ジャパン)やパートナー、顧客とのつながりをこれまで以上に強化し、より良いものにしたいと考えている」と語った。

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