IPAの登氏に聞く、「分散型クラウド基盤ソフトを作れるクラウド人材育成」

今回は「IPAの登氏に聞く、「分散型クラウド基盤ソフトを作れるクラウド人材育成」」についてご紹介します。

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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 「日本にもチャンスがある」。VPNソフトなどを開発してきた情報処理推進機構(IPA) 産業サイバーセキュリティセンター サイバー技術研究室 室長の登大遊氏は、分散型クラウドコンピューティング時代の到来を予測し、分散型クラウド基盤ソフトウェアを作れるクラウド人材の育成を説く。

 日本が海外クラウド事業者に依存するようになったのは、人材育成の方法を間違ったことにある。政府や民間企業が、クラウドやAIの人材育成を推進する発想までは良かったが、単にクラウドやAIを活用する人材の育成に陥ってしまったということ。それがデジタル敗戦につながり、デジタルサービスの支出は赤字になっている。

–登氏は、「クラウド人材」とはクラウド技術やクラウドサービスを設計・実装・運用する提供側の人材を意味するという。Amazon Web Services(AWS)や「Microsoft Azure」などの外資系クラウドを活用したり、彼らの認定資格を取得したりすることではないという。

 日本の組織は、クラウド人材を育成しようという発想は大変良かったものの、手法を誤った結果クラウド人材を育成できずに、性質の異なるクラウド利用人材を量産し、高額な使用料を外資系クラウドに払い続け、障害が発生してもブラックボックスなので自ら解決に当たることができない。

 大手クラウド事業者の基盤ソフト領域が高度なサイバー攻撃で侵入され、一極集中的にユーザーデータが奪取されるインシデントが発生するなど国家安全保障に重大なリスクをもたらす可能性も問題となりつつある。そのため、日本以外の先進国は、外国人が構築運用するブラックボックスのクラウドの利用をできるだけ避け、自国領域でクラウド人材を育成することが世界の主流となりつつある。

–2003年に、IPA未踏のスーパークリエータとなり、現在は筑波大学客員教授などを務める登氏はそう警鐘を鳴らし、今の一極集中型クラウドから分散型クラウドへ移行する2040年に備えてのクラウド人材の育成を訴える。

 20年周期で集中から分散、分散から集中に変わっている。1980年代の一極集中のホストコンピューター、2000年代のLANやPCサーバーによる分散型システム、2020年代の一極集中型クラウドコンピューティングと変遷し、次の2040年は分散型クラウドコンピューティングになる。コストが高く、効率が悪いなどの理由から、2030年ごろに「集中型クラウドはまずい」となり、自己所有のハードウェアによって、同コストでパブリッククラウドより10倍も速く安全な分散型クラウドコンピューティングへ移行するだろう。

–登氏によると、分散型クラウドは従来のオンプレミスとは異なり、1台1台サーバーや仮想マシン(VM)を管理し、故障対応をするのではなく、AWSや「Google Cloud Platform」(GCP)のように、複数台のコンピューティングやストレージ、ネットワークを集合させ、その中からリソースを割り当て、VMやストレージを実現する。登氏によると、特定のITベンダーが支配する集中方式にボトルネックや障害などがあると、活用する側は支障を来す。ビジネスの破綻を招く恐れもあるという。

 経営者たちは、本当はAWSのような使いやすいクラウド基盤のソフトを自分のデータセンターに置いて、手元からコントロールできるようにしたい。だが、AWS以上の使い勝手で、手放しで安心して利用できる、かつ安価なクラウド基盤のソフトがまだ1つも存在していないことが全世界的な課題だ。

–ここに日本の大いなるチャンスがあるという。

 海外のIT企業は最近、効率の悪い一極集中型パブリッククラウドの利用をやめて、自らクラウド基盤を開発し、導入し始めている。日本はこのことに気付いていないが、これから集中型クラウドサービスを導入する組織は少なくなる。

 例えば、ファイルストレージサービスのDropboxや自動翻訳のDeepLなどは既に自前のクラウドに切り替えている。よく考えると、GoogleやMeta、X(旧Twitter)でも自前のクラウド基盤ソフトを開発して使っている。GoogleはMicrosoftに、AmazonはOracleに依存していない。

–世界のITベンダーらはそうした自前で開発する方法に進み始めている。

 力や能力がある人は他人の支配管理クラウドに依存しない。民間企業のレベルだけではない。欧州連合(EU)はハイパースケールコンピューティング技術をEU内に作るべきだと公言している。他国が自国内のデータセンターに遠隔アクセスし、個人情報などのデータを取得するなど、個人情報やプライバシーを脅かす危険性が高まっていることが背景にある。

 現に米国政府や中国政府は、自国民によって作られた安心したクラウド基盤を採用し、少なくとも海外製クラウドを使うことを原則として避けているのではないか。EUも「GAIA-X」の構築に取り組んでいる。

–ところが、日本だけはガバメントクラウドまで海外クラウドに依存しようとする。「日本人はクラウド基盤を作れない」との声もある。

 日本人には分散型クラウド基盤を作れる十分な能力がある。人数は負けるが、米国と同等の技術レベルだ。しかも集中型パブリッククラウドでもうけている米国のクラウドベンダーは、既におおむね完成した集中型クラウド基盤で確立した固定的技術部分やビジネスモデルをなかなか変更しづらい。つまり、彼らは昔の日本のNTTのようなものになりつつあり、革新的な新技術を開発しづらい環境にあるということだ。

–かつてのベンチャー企業が今、大企業になったということだろう。そこにチャンスがあるという。

 歴史を振り返ると、日本は自動車も家電も半導体も10数社のメーカーが競い合っていた。コンピューター産業も同じだ。欧米に、こんなに多くのベンダーを輩出した国はない。同じようにクラウド基盤メーカーが多く生まれることを期待できる。

 実は、これらの大企業の技術者たちがクラウド技術を作ることができるかもしれない。新しいものを作るより、売り続けた方がいいとの考え方はもう通用しないのは分かっていること。日本が、80年代のホストコンピューターを売り続けるというのを何十年も回せたのは驚異的なこと。投資対リターンが大きかったが、今は大きな収入が入ってこない。次を作る必要がある。その切り札がソフトになる。

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